え酒の肴に珍重した。流れの面に、落ちては輪を描く霙《みぞれ》の白妙《しろたえ》に、見紛う色のみやこ鳥をながめながら、透きとおるほどの白魚を箸につまんだ趣は、どんなに風流なことであったろう。
 わたしは今戸の寮の、昔の豪華譚に憧れて、吉原や小塚っ原へ遊んでは、翌朝千住から船で下って、今戸のみやこ鳥のいる風景を眺めた。
 こうして、私は救うことのできない遊蕩に身を持ち崩した。故郷の父から送ってくる金など、もちろん足りようはずがない。友達から先輩にいたるまで、手の及ぶかぎり迷惑をかけた。果ては誰も顧みるものがなくなった。
 悲しい『夜逃げ』となったのである。

     五

 明治四十五年夏、夜逃げの旅から東京へ帰ってきて以来、このみやこ鳥のことは忘れていた。
 ところが、はからずもこの正月に、両国橋の上から、みやこ鳥に再会した。いまのみやこ鳥は荒川、隅田川、大川尻かけて柳橋の龜清の石垣にいるだけであるそうだ。私は、ここでみやこ鳥と再会してからというもの、二、三日おきには両国橋の上へ佇《たたず》んだ。
 みやこ鳥の群れは、大川と神田川の合流点のまわりを離れない。東岸の向こう両国の方へ群れを
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