けはこの際なんとかなるまいか。東京では、なにかと代用食が流行しているそうだ。狸もその仲間にできまいか。もし狸肉がなにかの代用食になるとすれば、彼氏もまた時節柄バスに乗り込めたことになる。日ごろ睾嚢《こうのう》八畳敷きを誇り大風呂敷をひろげて人を誑《たぶら》かしていた狸公も、いささか国家のために尽くすところの一役を与えられれば幸甚であると、故郷の村からつい二、三日前、手紙があったばかりだ。
ところで、僕ら数名が試食した上、これなら食えると感じたなら、一番この際、狸公を世の中へ出してやろうではないか、と友人は熱心に説明するのであった。
私も、一応なるほどと思ったのである。
四
私が友人の説明に対する考えに、一応という言葉をつけたのには一応理由があるからである。それは、さる頃狐の肉で失敗しているからだ。
初冬の真昼、友人数名と共に銀座の舗道を歩いた。すると、前方から有閑婦人が頗《すこぶ》る高貴な銀狐の毛皮を首にまきつけ、しゃなりしゃなりと漫歩してきた。婦人は素敵な美人であったけれどそれよりも私ら仲間の注目をひいたのは、西欧の王さまたちが即位のとき身に飾る黒貂の毛皮に白金
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