と上州とに跨《また》がる浅間山が爆発して熔岩を押しだし、それが利根川の下流まで流れ溢れ、私の村の近くは火石の原と化したのである。その後、火石の原に楢《なら》や椚《くぬぎ》、栗などの雑木が生い繁って平地と化したのであるが、そこへどこからともなく狸が移り棲んで繁殖したのである。
村の七蔵爺さんというのは、狸と仲よしであったとのことであった。私も子供のとき利根川畔の雑木林へ早春の虎杖《いたどり》の若芽を採りに行くと崖の下の陽《ひ》だまりのところに、狸のため糞が山と積んであるのを見た。また時には狸の子供が五、六匹、穴の入口で角力《すもう》などとって戯れているのを見たことがある。晩秋になると、雑木林の方から枯草ぼうぼうたる私の広い屋敷へ、狸が毎夜遊びにきた。私の屋敷には、樫の木が数多くあって秋になるとそれから小|団栗《どんぐり》が落ちたからだ。狸はヒョウヒョウと鳴く。夕飯がすんで寝る頃になると、ヒョウヒョウと細い鳴き声が次第に屋敷のまわりへ近づいてくる。幼い私は、その声をきくと恐《こわ》さに祖母の膝へしがみついた。そして祖母の寝物語に、カチカチ山の爺さんが狸婆さんに狸汁だと騙されて婆汁を食った
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