というお伽噺をきき、狸は凄い妖術を持っている獣であると、ひどく感心したものであった。
 そんな次第であるから、これから後、楢の木の大団栗はもちろんのこと、樫の木の小団栗に至るまで清酒醸造の資料になってしまったなら、わが故郷の狸どもは食糧難にいかなる対策を講ずることであろう。

     三

 それはとにかくとして、私は祖母の懐《ふところ》でカチカチ山の噺《はなし》をきいてからというもの、狸汁について深い興味を持ちはじめたのである。南支の広州に、三蛇会料理というのがある。これは蝮《まむし》、はぶ、こぶらの三毒蛇を生きながら皮を剥ぎとり、肉をそぎ身にして細かく叩き、鼎《かなえ》にかけた鍋のなかへ投ずる。鍋のなかには予め羹《あつもの》が煮えたぎっていて、三蛇は互いに毒をもって毒を制し、その甘味、その肥爛まことにたとうべからずというのである。さらに加役として支那|芹《せり》と菊の華をあしらい、ついで餅と狸の肉を入れるのだ。
 つまり、広州の三蛇会料理というのは、日本のちり鍋で、へび[#「へび」に傍点]ちりとかたぬ[#「たぬ」に傍点]ちりとか呼んでいいのかも知れない。こんなわけで、狸は支那の代
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