か」]そうはいかぬ。裸の狐だ。忽ち十数人の友達が集まって、肉を刻みおよそ百匁くらいずつ竹の皮包に分けて、各々わが家へ持ち帰ったのである。
 一堂に会して試食しなかったというのは、めいめい家へ持ち帰り自由に料理して食った方が、各人それぞれ異なった趣好によって、狐肉の美味の真髄を探ることができるであろうという申し合わせであったからである。その夜私は、あいにく他に会合があったのでその方へまわったところ、不覚にも少々酩酊したため、狐の竹の皮包をどこかへ紛失してしまった。
 まこと残念である。だが、いたしかたない。やむを得ないから、友人に試食の報告をきいて狐の風味を想像しようと考え、二、三日後数名の友人と会したのである。ところが大変だ。一人が言うに、家庭へ持ち帰ると細君の知恵で焼鳥風にやってみることとなり、肉を串にさして焜炉《こんろ》の炭火で焙ったところ、脂肪が焼けて濃い煙が、朦霧《もうむ》のように家中へ立ちこめ[#「立ちこめ」は底本では「立ちため」]、そのうえ異様の臭気を発して居たたまらず、細君と子供が真っ先に屋外へ避難、続いて自分も庭へ飛びだした。君は随分ひでえものを俺に食わせたなあと、あた
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