しゃもじ(杓子)
佐藤垢石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)度胆《どきも》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)養蚕上|簇《まぶし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
−−

 二、三日前、隣村の老友が私の病床を訪れて、例の「しゃもじ」がまた出たという。
 貴公が、出あったのか。
 いや、僕ではない、近所の青年が度胆《どきも》を抜かれよった。
 さては、彼の狸め、今もって頑健であるとみえるな。
 怪物「しゃもじ」のことについては拙著「狐火記」のうちに書いておいたが、しかしこのような剽軽《ひょうきん》な変化《へんげ》は、二度と再び出るものではあるまいと当時考えていたから、このたび再び出現したというのをきいては、まことに今昔《こんじゃく》の感に堪えない。
 今から、四十二、三年も昔のことであるから、私の青年時代である。隣村の東箱田にある村役場へ用事があって、ある日の午後から出かけていくと、折りよくこの老友も役場で雑談に耽っていた。
 今は既に老友となったけれど、この老友も私と同じに歳は若く、
次へ
全6ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐藤 垢石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング