懐中から、連判帖を取り出し硯箱を引き寄せて、筆に墨を含ませた。
『岡部――森山――佐野』
『おう――おう』
 底力のある返答と共に、連判帖の名前の上へ黒い点が落ちていった。
『黒沢――大関――有村』
 これを最後として十八名の点呼は終わった。一人の不参者もない。
 そこで関は、懐中から一枚の書き付けを取り出した。
『これは、これまで幾度か同志に示したはずであるが、折節《おりふし》列席のない方もあったから、再び申し告げることにする。つまり、部署についてのことだ。不調法ながら拙者は、君命によって一隊の懸引《かけひき》を掌る役目を承っている。また、ここにいる木村、野村の両人も、同志の手に余る敵のある時、飛び出して行って加勢仕る役割、謂わば予備員でご座る。また一挙の後、老中自訴の砌《みぎり》、誰か惣代にならねば口上区々となって不都合を生ずる。これは、金君からかねて斎藤君へお願い申してある。されば、斎藤君はまず戦闘に加わらぬものとご承知願いたい。次に右翼の先鋒が黒沢、有村、山口、増子、杉山の五名。同じく後隊が鯉淵、蓮田、広木の三名。左翼は佐野、大関、森山、海後、稲田、広岡の六名。前列を乱すは
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