監物、蓮田市五郎、広岡子之次郎、鯉淵要人、稲田重蔵、岡部三十郎、森山繁之助などが、ぽつりぽつりと集まってきた。
『やあ』
『やあ』
 と一度は晴れやかに挨拶を交わすが、死を決した人々は、さすがに惨として一言も発しない。斬って斬って斬りまくろうとする扮装に、互いに輝く眼をやった。
 斎藤監物は、紋付きの割羽織に袴をつけ、足駄をはき傘を持っていた。佐野竹之介は股引脚絆に、黒木綿のぶっさき羽織をつけ、白い紐をだらりと下げてその下に襷《たすき》を掛け、二尺九寸の大刀を差して、頭に菅笠を冠っている。森五六郎は、茶縞の乗馬袴、羽織の下に襷をかけているのが見える。
 広岡子之次郎の、素肌に袷《あわせ》を着け乗馬袴に紺足袋をはき、麻裏草履を紐で結んでいる姿は粋で、そして颯爽としていた。海後磋磯之介と山口辰之介は、木綿の半合羽。そのほか、野袴の者もあれば立っ付きをつけた者あり、下駄唐傘や、菅笠に股引と草鞋《わらじ》など、まことに異形の姿の者ばかりであった。
『百鬼の図かな』
 と、稲田重蔵が低く独語して、微笑んだ。
 斎藤監物と関鉄之介の二人を除くほかは、大抵絵馬堂の内外で下駄を捨て、草鞋に替えて襷を上
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