ために北海道へ二カ月の旅行をして、この月六日に帰ったばかり、それで十日からは授業を始めますし、卒業試問もあるというのです。その頃はそんな時に試験があったのでした。その準備もせねばならず、北海道からは発掘した荷物が来るのですから、繁忙を極めていました。
その頃の東片町は、夜になると寂しいところでした。私の部屋のある四畳半は客間の続きですが、雨戸なしの硝子《ガラス》戸だけでした。いつか雨続きの頃、主人は会があって不在の晩、静かに本を読んでいる内に夜が更《ふ》けました。ふと気が附くと、窓の前でペタッ、ペタッという音がします。何かしら、と首を傾けても分りません。暫くすると、また音がします。高いところから物の落ちる音ですが、それが柔かに響くのです。気味が悪いけれど、思切って硝子戸を少し開けて、手ランプを出して見ましたら、やっと分りました。それは大きな蝦蟇《がま》が窓の灯を慕って飛上り、体が重いのでまたしても地面に落る音なのでした。蹲《うずくま》ってこちらを見る目が光っています。翌日早速厚い窓掛を拵《こしら》えました。その家は、私どもが引移った後には長岡半太郎《ながおかはんたろう》氏が長く住んで
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