ます。気の利いた仲働《なかばたらき》が、印《しるし》ばかりの酒を出したようです。家の中では、旧《ふる》い書生たちまで集って来て悦びをいいます。祖母は気丈な人でしたけれど、お辞儀をしただけで、涙ばかり拭《ふ》いて、物はいわれませんかった。私はそれを見て、同じように涙が止りませんでした。父はにこにこして煙草《タバコ》を吸われるだけ、盛《さかん》に話すのは次兄一人です。
やがて私は、家の車で送ってもらって帰りました。その頃|小金井《こがねい》は東片町《ひがしかたまち》に住んでいました。始めは弓町《ゆみちょう》でしたが、家主が、「明地《あきち》があるから」といって建ててくれたのです。弓町では二棟借りていました。国許《くにもと》から母と妹とが来たので狭くなったからです。東片町は畠の中の粗末な普請です。庭先に大工の普請場があって、終日物音が絶えません。新築がつぎつぎに出来るためでしょう。向い側には緒方正規《おがたまさのり》氏が前から住んでいられましたが、そこはお広いようでした。その頃郵便局のあった横町から這入《はい》るので、左へ曲ると行止りになる袋小路《ふくろこうじ》でした。小金井はアイヌ研究の
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