樋《とい》が掛けてありましたが、それも表側だけで、裏手にはありません。その際に高い五葉《ごよう》の松が聳《そび》えていました。私はその太い幹を剥《は》いでは、剥げた皮が何かの形に見えるといって喜んで、それを繰返して遊びました。暫《しばら》くすると、その葉色が悪くなり、弱りが見えて来ました。裏手ですから目立ちませんが、どうしたものかと案じました。父は、これは誰かのいたずららしいと、頻《しき》りに調べていられました。錐《きり》か何かで穴を明けて、鰹節《かつおぶし》などを差込んで置くと、そこから虫が附き始めるというのです。原因は知らず、木はやがて枯れてしまいました。
五葉の松の近くに裏木戸があって、そこに柳が糸を垂れています。表門の際のほどには大きくありませんが、風が吹くと横ざまに靡《なび》いて、あたりの木を撫《な》でるのでした。木戸を出るとすぐ田圃《たんぼ》です。曳舟通《ひきふねどおり》が向うに見えます。或年長雨で水が出て、隣の鯉屋の池が溢《あふ》れ、小さな鯉や金魚が流れ出たといって、近所の子供たちが大勢寄って来て、騒立《さわぎた》てたことなどもありました。
正面の庭の奥の、縁からは見
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