んこ》を懐《ふところ》から覗《のぞ》かせて歩くのです。
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雨はしょぼしょぼ、もみじ番所をすたすた通れば、「八、きのうの女にもてたか」「大《おお》もてよ」。わるい道ではないかいな。
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ただこれだけの歌ですが、わるい道という所から、裾《すそ》を高々と※[#「塞」の「土」に代えて「衣」、第3水準1−91−84]《たく》って、白い足に続いた白い腹まで出して、ゆるゆると歩き廻るのです。少し鈍い子のようで、恥しそうな顔もしませんのは、たびたび踊らせられるのでしょう。酔った人たちは手を叩《たた》いて囃《はや》すのでした。いくら土地柄とはいえ、なぜこんな踊をさせるのだろう。お兄様もどこかで見て御存じなのかしら、それともこんなお客たちが喜ぶだろうと思って仰しゃったのかしら。私はとつおいつ考えていました。
「おい、小六さんは踊らないのかい」と肩を叩く人があっても、小六は見向きもしませんかった。
お医者の中に、この土地で唯一人の医学士がありました。敏捷《びんしょう》そうな三十余りの人です。後になって、その人が小六を妻にしました。養子なのでしたが、家附《いえつ
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