うとせられたのでしょう。その時私がたずねましたら、「お前はまだ見たことがないが、それは美しい人だよ。あの人が来てくれたのに、こんな著物を著せて、そこらに坐らせて置いたら、兄さんはもとより、私がどんなに楽しみだろうと思ってね」と、夢見るような目附《めつき》をなさったのを、いまでも忘れずにいます。夢想と現実との違うのが世の習いですが、希望の大きかっただけに、母のその後の落胆の度も強かったのでしょう。
観潮楼の二階で、親戚だけの型ばかりの式を挙げて、翌日夫妻は連れ立って任地の小倉《こくら》へ立たれました。母はその前後をただ多忙に過されましたが、噂《うわさ》を聞いて待っていた祖母は、恐らくその美しい孫嫁の一声をも聞かれなかったでしょう。残念がっていられました。
私が小倉へ向けて手紙を出しましたら、その返事をお嫂様《ねえさま》は下さいましたが、文面には兄の息の通っているような気がしました。私は日常に追われて、手紙も度々は出しませんかった。あちらから戴いたのは、ただ一度だけでした。
美しい方《かた》でしたから、まだお若い時に或富豪に望まれて、お片附《かたづき》になったのです。そのお支度をする
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