ました。掘上げた根を縄で捲《ま》いていますところへ、それを積んでゆくトラックの音がして来ます。椿《つばき》、どうだん、躑躅《つつじ》などの丈の低い木はそれほどにも思いませんが、白梅の古木や楓《かえで》などは、根が痛まず、障《さわ》りのないようにと祈られます。楓の紅葉は庭一面を火の燃えるように照して、それを誰もが賞美したのですが、今年は普請場の傍で寂しく紅葉して、寂しく散ることでしょう。幾百年を経た松の古木があって、昔の東海道のようだと誇った土地も、哀れなことになったので、今遠方から少しずつ木を運ぶのです。
引越といっても、私は老体で何も出来ませんから、長男や嫁がいろいろ心配して、住みよくしてくれた狭い部屋で、手廻りの箱や包をぽつぽつ整理しています。他人には何の趣もない紙屑《かみくず》や小切れでも、皆それぞれに思い出があるものですから、それらを手に取上げて見詰めたりします。小切れのたとうの中に、黒地に一面に大小の紅葉を染めたのがありますのは、長女の五つの時に初めて袖の長い衣類を作ってやった、その時のです。小金井の家は戊辰《ぼしん》の際に朝敵となった長岡藩の士族で、主人は貧しい家に兄弟が
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