っと成人して養子を貰い、間もなく妊娠したので、これからと思った時に祖父が客死せられたので、その時の祖母の歎きは思いやられます。それでも気丈な祖母は崩折《くずお》れず、養子が優しい性質で励ましてもくれますので、孫の出生をひたすら待ったのでした。そうして生れた孫が私たちの長兄鴎外で、母はその時十七歳でした。
母の産は不思議なほど軽かったそうです。お医者仲間では、まだ年少なので、骨が堅くないからだろうという人もありましたが、祖母は、「全く祖父のお助けに違いない。生変《うまれかわ》って来られたのだから」と、神棚へ灯明を上げて、いつまでも拝まれたとのことです。
そんなわけで、その初孫《ういまご》を非常に大切になさるのでした。或日夜更けてから用事のある人が、横堀にあった森の家の辺を通りかかると、あかあかと灯がともっていて、人声もするのです。もしや病人ではあるまいかと覗《のぞ》いて見たら、生れたばかりの赤ん坊のむつかるのをあやすというので、皆起きて騒いでいるのに呆《あき》れたということです。私はその話を聞いてほほえんだのでしたが、近頃|成尋阿闍梨《じょうじんあじゃり》の母の日記のことを佐佐木信綱
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