ま》の取れることなどもありますが、極《き》まりが附いて皆がそこを離れるころには、また別の方で呼立てます。天気の時は大抵軒下でしますが、雨が降るとどやどやと這入《はい》りますから、広い三和土《たたき》も一杯です。朝の市が済んで、そこらを掃上《はきあ》げて、静かになってから、人々は朝餉《あさげ》を取るのでしょう、出て来た人たちを相手のちょっとした食事の出来る店もあります。腰を掛けて休む店も幾軒かありますが、それは市場を離れて大橋へ行く道の後を田圃《たんぼ》にした辺にあって、並べた菓子類などが外から見えます。そうした家では、どこでも毬餅《まりもち》とか、新粉《しんこ》の餅に餡《あん》を包んで、赤や青の色を附けたのを糯米《もちごめ》にまぶして蒸したもので、その形から名附けたのでしょう。それに混って雀焼屋《すずめやきや》があります。それはこの土地の名物です。小鮒《こぶな》の腹を裂いて裏返し、竹の小串《こぐし》に刺して附焼《つけやき》にしたもので、極く小さいのは幾つも並べて横に刺すので、それは横刺ともいいます。鮒は近在で捕《と》れるのでしょう、大きな桶《おけ》に一杯入れたのが重ねてあって、俎板《ま
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