進め、佐善氏の仲介で川田氏の養子にきまりました。川田氏は元老院議官で西氏ともお役向《やくむき》の知合です。ところが川田氏があまり次兄を愛されるので、あちらの親戚から故障が出て、譲与の契約の削減の事を仲介者の佐善氏から申されました。その態度に憤慨されたお兄様は、「譲与の額の多寡は問題ではない。男が一旦《いったん》明言した事を傍《はた》の者のために左右せられるのは、弟の将来のために頼もしくない」と、直に川田氏を尋ねて破談を申されたのです。その話を父から聞かれた西氏は、
「なぜ早く聞かせなかった。何とか穏《おだや》かな方法もあったろうに、何しろ林《りん》はまだ若いから」といわれました。
 ほんとに兄は若かったのです。
 やがて兄の洋行の時が来ました。その報告に父が伺ったら、西氏はひどく喜ばれて、「己《おれ》も近頃は医者にかかるが、心安くしても相当の謝礼はする。経済上にもよい。専門は何か」と聞かれます。
「何か衛生学とか申しておりました。」
「そうか」と、さも残念そうでした。臨床的な科ならよいと思われたのでしょう。でも過分な御餞別《おせんべつ》を下さいました。
 洋行して帰った時、早速縁談をい
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