の汽車の音には、やはりお困りでしたろう。その家には前後二回伺っただけでした。
東照宮下から動物園の裏門の方へ曲って、花園町というのに今度のお家があります。山を右にして左側がお邸《やしき》です。もと上野山へ納める花を造っていたとのことですが、日当りはあまり好くないようですから、大した花は出来なかったでしょう。生垣《いけがき》の間の敷石を踏んで這入るのでした。右へ曲って突当りがお玄関で、千本格子の中は広い三和土《たたき》です。かなり間数があったようで、中廊下の果の二間がお部屋、そこから上った二階がお書斎でした。八畳位でしたろうか、折廻しの縁へ出て欄干に寄ると、目の下の中庭を越して、不忍池《しのばずのいけ》の片端が見えます。眺めがよいというのではありませんが、あの頻繁《ひんぱん》に目の前を汽車が往復した家とは比較になりません。ただ夜更《よふけ》には動物園の猛獣の唸声《うなりごえ》がすると、女中たちはこわがりました。
お部屋へは、よくお客が見えます。それが皆長座なさるのです。そこで始めて落合直文《おちあいなおぶみ》氏や市村※[#「王+贊」、第3水準1−88−37]次郎《いちむらさんじろう》
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