蓄してこんなになったのだといいます。その孫ででもありましょうか、今の主人らしい人には、卑しい様子もありません。
家に帰ると、出迎えた女が、「大変お早ようございましたね。お留守でしたか。」
「いいえ」とばかり答えて上るなり、そのまま座敷の縁側に坐って、ぼんやり庭を見ていました。南さがりになっている芝生《しばふ》に、色の褪《さ》めた文字摺《もじずり》があちこち立っています。
いつも団子坂へ行くのを楽しみにして、お兄様がお家の時は、近く買われた古本などを見せていただき、その説明をも聴いて、時の立つのを忘れるのでした。お母様のお部屋では取止《とりと》めもないことを語合《かたりあ》って、つい笑い声も立てました。暇乞《いとまごい》をすると、用がないからと、いつも送って下さいます。そのままでお出かけですから、「被布《ひふ》の上前《うわまえ》が汚れていますよ」といいますと、「こうすればよかろう」と、下前を上にして平気でいられるのを笑ったりなどもしました。そんなですから、いつも裏通りばかりを歩きます。今日はお留守でしたろう、お家なら聞きつけてお出になるのですから。でも今日などはお目にかかりたくありま
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