し、鮒尾とかいって、尾の小さいのが、はしっこく元気に動きます。金魚屋は硝子の薄い丸い玉を、細い赤い糸で編んだ目の荒い網に入れ、水を少し入れて渡します。私も金魚を買うことにしました。小さな叉手《さしゅ》を出して「どれでも欲しいのをおすくいなさい」というのですが、なかなか思うようにすくえません。とうとう金魚屋さんに頼みました。落したら大変と、大事に提げて帰ります。お座敷の卓の上の鉢植と並べて、飾りましょうと思いながら。
 美しいのは簪屋さんでした。横四、五尺、両側は三尺足らずの屋台で、障子のような囲いをして、黍殻《きびがら》のようなものを横に渡したのに、簪が一杯刺し並べてあります。外に小さな箱に入れて、立てかけたのもありますし、小さな硝子の簪などは、幾本かを一緒に筒に立ててあります。大きな撮細工《つまみざいく》の薬玉《くすだま》に、いろいろの絹糸の房を下げたのが綺麗です。赤や黒塗の櫛《くし》に金蒔絵したのや、珊瑚《さんご》とも見える玉の根掛《ねがけ》もあります。上から下っているのは、金銀紅の丈長《たけなが》や、いろいろの色のすが糸です。この店には、小さな吊しランプが二つも下げてありました。売る人はその前に腰を掛けて、煙草を吸っています。立止って動かないのは女ばかりです。
 それから地面に直ぐに筵《むしろ》を敷いて、玩具《おもちゃ》類を盛上げているのもあります。
 また面白いのは虫売で、やはり小屋掛けですが、その障子は市松《いちまつ》模様に貼《は》ってあり、小さな籠《かご》が幾つともなく括《くく》りつけてありました。さまざまの虫が声を揃《そろ》えて鳴いています。野原や庭で鳴いているのは、近くへ寄っても鳴きやめるのに、雑沓《ざっとう》の中でよく鳴いていることと思います。その店にはなお、大きな籠に黒絽《くろろ》を張って、絵の具で模様を画いたのに、蛍が一杯這入っていて、その光が附いたり消えたり、瞬《またた》きするようで綺麗でした。やはり黒絽で張った小さいのが、まだ幾つも下げてありました。
 人の大勢たかっている処は見ないで行きましたが、道の傍の土の上に筵を敷いたのに小さな子を寝かして、傍に親らしいのが坐って、お辞儀をしているのがあります。子供は眠っているのか、じっとしています。「可哀そうね」といいましたら、定は笑って、「子供はどこからか借りて来たのだそうで。肥えた子は安くて、痩
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