くも壇上に現われた、彼は年なお壮、風貌甚だ揚れる一紳士である、聴衆は彼を見るや、等しく青二才めと冷笑して、もはやその説に耳を借《か》そうともせず、知らぬ振りして他を向くのであった。
されど青年物理学者は、至って沈痛なる語気を以て、
「諸君、予はここに諸君の賛成を得たき一の提案を有っておるのである、そは別事にあらず、空間のエーテルを利用して、一の新案飛行器を造出し、以て他の新世界に進むのである、しかしながらかくのごとき試験は、往古より未だ何人も行わなかったのであるから、あるいは不成功に終るかも知れぬ、ただ吾々は諸君が何物よりも貴重する身体を安全に他界に移し得らるるかとも信ずるのだ」
と彼は熱誠を以て説いた、聴衆はあたかも暗中に一閃光を認めたかのごとくに、気早やなる連中は、
「実行実行!」
と絶叫したのであるが、さらに一人の空想家はこの言を遮って、
「僕はさらにより以上の名案を有するのである、諸君乞う意を安んぜよ、吾らは過去の時代に於て、かの彗星なる奴が、しばしば地球に衝突すべく、全世界の人民に、大なる恐怖心を有たせた事を熟知している、この彗星たるや、本来は太陽系に属する物にも拘《か
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