の智識を以て、とても計り知る事の出来ぬ多大の重量があり、久しく医界の疑問となっていたのである、しかるに何ぞ知らんや、この不可解の重量こそ、正しく霊魂その者の目方たること、漸《ようや》く千九百〇六年の最近に於て、しかく断定せられたのである。
 これに依って思うに、よしや太陽系統は一時滅亡の悲境に立ち至るとも、吾々の霊魂なる者は、決して運命をそれと一にすべきものではなく、必ず他の世界に飛行して、再び活動の端を開く、五尺の肉体何の惜しからむや」
 と、彼は滔々《とうとう》万言、聴衆に大なる慰安を与えようとした、けれどもこの提案は、何人も歓迎しなかった、即ち彼らの多くは、皆口々にいって曰く。
「老ドクトル閣下、吾々は今や父祖累代の財宝金銀、あらゆる物をば、全く土芥のごとくに放擲《ほうてき》したのである。今やこの五尺の体躯こそ、最も貴重すべき宝となったではないか、それをも棄てさするに至っては……ああ、天地一の善神さえ無いのか!」
 この一言は、全く聴衆全体の声であった、しかり悲しき響きであったのだ、時に今迄は、ただ片隅に、熱心に各議員の説をきいていた一人の物理学者は、聴衆の悲痛を見かねて、雄々し
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