中 滅亡時に処すべき覚悟

 今や同盟会員は、祖先以来永住の地球を見捨てて、さらに別世界に移住すべく余儀なくされたのである、しかもこの事たる、頗《すこぶ》る難事業で、到底軽々しく決行し得らるる問題ではない、されば聴衆の内には、すでに「無為にして滅ぶ」「吾らはただにその生命ばかりでなく、祖国否天賦の大塊をも破滅せらるるのか」などという、絶望的の歎声さえ起って、さしもに広い大会堂も、殆ど暗澹たる憂愁の雲に被われて仕舞った。
 この時、この有様を見るに見兼《みか》ねて、猛然として演壇に起ったのは、齢《よわい》七十に余る老ドクトルである、彼は打ち凋《しお》れたる聴衆の精神に、一道の活気を与えんがために、愁いを包んで却って呵々大笑し、まず彼らの視線をそこに集め、おもむろに口を開いていった。
「満堂の諸君! 卿らは何故にさる失望落胆の声を発するか、予は頗る不思議に思う、そもそも人類には霊魂と称する不死不滅のものがある、試みに気息ある人の体量と、死せる者の体量と比較し見よ、彼に比してこれの甚だ軽き所以《ゆえん》は、元より体中に存在せる空気の量にも依るであろう、しかしそれにしてもなお吾々
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