杯を手にしたのであったが、かかる分秒時とも、彼らの聴衆は静かに俟つだけの時間を有さなかったのである。
「弁士! 滅びたる我世界は、何年の後に復活すべきや、かつ如何なる動機に依って燦然《さんぜん》たる光輝を放つに至るか、希くは不安なる吾らが胸に一縷《いちる》の光を望ませて下さい」
 と、これもまた救世主の前に叩頭する罪人のごとく、顔色青ざめて、五体を慄わしておる、されどその答は、却《かえ》って聴衆の胸中に、さらに暗雲を漲らしむるに過ぎなかった、しかり全く絶望的の断案は下されたのである。
「君よ、この問いに対しては、吾々は殆ど確答し得ない、のみならず微々たる太陽系の死骸は、広大無辺の宇宙に介在して、ただ何らの目的もなく、右に往きあるいは左に往きする時、他の偉大なる恒星に会して、ここに相衝突する時、死せる太陽は、再び息を回《かえ》して、爛々たる光熱を吐くに至る、されど君よ、死せる太陽が、めぐりめぐりて、他の星体に相会する年数は、十万年なるか、はた二十万年を要するか、そは微少なる吾々の智識にては、到底判断することの出来ぬのを憫れと思われよ」
 彼は憮然として、また他をいうを好まなかったのである
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