を残さんとするか。
地球面の大洋は、たちまちにして波の音たえ、全く氷塊を以て閉されて仕舞った、陸上は次第に薄暗くなって、悲風頻りに吹き、樹木また凍結し、動物は食つきて、その残骸は、地の表面を被わんばかり。
最後まで残りたる一人の天文学者は、少数の人民に向って、せめてもの思い出にと、自己の専攻せる太陽系の滅亡に就いて物語った。
「諸君はもはや悲みを忘れたであろう、吾々の同胞は、いずれも安き眠に就いた、吾々もまた相次いで亡ぶであろう、かくいわば諸君は、いうべからざる淋しみを感ずるかも知れぬが、しかし決して憂うることはない」
と、これを聞いた二、三人の者は、淋しい笑いを浮べて、
「先生よ、吾々は最後まで生き残ったものの、もはや生命を全うしようなどという、希望は、毫《ごう》も有りません、淋しい苦しい世界を脱して、一時も早く他の楽しい所へ行きたいと思うのです」
「よく言われた、君らは充分に安心してよいのだ、学問上宇宙のすべての物は、如何なる微塵子といえども、一秒も進化という目的を忘却せぬ、つまり吾々の世界が、今滅亡しようとするのも、その実滅亡ではなくて、進化の一現象に過ぎぬのだ、しかし物体
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