帰するのである!
かの天に夜毎清麗なる光を恣《ほしいまま》にする月は、由来我地球の分身にして、しかも地球よりも早く死滅したる一世界である、汝《なんじ》に出ずるものは汝に帰るとかや、かの月は、やがて我地球と衝突して、二体同一となるのであるが、その時は我世界の破壊時にして、何物の生者をも存在せしめない。
死せる地球、及び他の惑星は、瀕死の太陽を囲繞して、暫しは哀れを止むるが、その太陽が中心迄、冷えきった時は、宇宙の一辺には、偉大なる怪球どもの残骸が横たわって、見るも無慚なる有様となる」
時に一人は叫んだ。
「君よ、太陽系はかくのごとくして全く滅亡に帰し、再びその生を回復し能わぬか」
彼は殆《ほとん》ど絶望の涙を湛えて、弁士の確答を促したのであった。
「憂うるなかれ、宇宙の万物は、すべて流転輪廻の法則の下に存在するのである、即ち滅亡せる太陽系統は、或る時機に於て、必ず復活すべきことは、何人といえども否定し得ないであろう、君よ今まさに滅亡せんとする我世界は、悠久の過去に於て、すでに幾度も生滅を繰返したのである」
彼はかく述ぶるとともに、暫時その咽喉《のど》を湿《うるお》すべく、冷水の杯を手にしたのであったが、かかる分秒時とも、彼らの聴衆は静かに俟つだけの時間を有さなかったのである。
「弁士! 滅びたる我世界は、何年の後に復活すべきや、かつ如何なる動機に依って燦然《さんぜん》たる光輝を放つに至るか、希くは不安なる吾らが胸に一縷《いちる》の光を望ませて下さい」
と、これもまた救世主の前に叩頭する罪人のごとく、顔色青ざめて、五体を慄わしておる、されどその答は、却《かえ》って聴衆の胸中に、さらに暗雲を漲らしむるに過ぎなかった、しかり全く絶望的の断案は下されたのである。
「君よ、この問いに対しては、吾々は殆ど確答し得ない、のみならず微々たる太陽系の死骸は、広大無辺の宇宙に介在して、ただ何らの目的もなく、右に往きあるいは左に往きする時、他の偉大なる恒星に会して、ここに相衝突する時、死せる太陽は、再び息を回《かえ》して、爛々たる光熱を吐くに至る、されど君よ、死せる太陽が、めぐりめぐりて、他の星体に相会する年数は、十万年なるか、はた二十万年を要するか、そは微少なる吾々の智識にては、到底判断することの出来ぬのを憫れと思われよ」
彼は憮然として、また他をいうを好まなかったのである
前へ
次へ
全8ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 小舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング