もの一人もなく、等しく自己の生命を全うして、未来の安楽を希《こいねが》うものばかりである。
 同盟会の一人は、さらに語を続けて述べていうよう。
「かの高熱度を有する火の玉、すなわち一団の大|瓦斯《ガス》塊は、自ら非常なる速度を有して宇宙の一辺に回転しつつある内、その外側に当ってさらに一大輪を生じたのである」
 この時一人の弁士はこれを反駁して曰く、
「否々、我世界は、由来神の創意に依って出来たのである、瓦斯球が回転しているなどとは真赤な嘘でござる、もし君のいうごとくならば、その瓦斯体なるものは、どういう理由で出来たか、ただ訳もなく出来るはずはござらぬ、何としてもこれは神、即ち造物主の創造に帰するの外はない、如何にというに、神は吾人の想像し得ぬ永劫の昔から在ったものではないか」
 と、これは保守党の弁論で、大分ノーノーと呼ぶ声もあった、すると先の一人はこれを反駁するために、
「暫く清聴せられよ、もし君のいわるる通り、造物主の創意になったものとすれば、今回のごとき、恐怖時代があろうはずはない、神は蒼生を憫《あわれ》みこそすれ、これを滅亡して快とするような了見の狭い者では有るまい」
 謹聴謹聴の声が起る、やがて満堂は水をうったごとくに静まり返る、彼は得意そうに説明を続ける。
「さて諸君、急速力に依って出来た外輪は、二個三個遂に八個となり、しかも相ともに回転しつつあった、しかるにこの小瓦斯塊は、分子間相互の引力に使《よ》って、凝集して楕円塊となり、さらに収縮してその密度を増すのである、彼らの楕円塊がその熱度を空間に放出して、外殻が出来たものこそ、我地球のごとき有様を呈する、しかるに中央の本体たる大瓦斯塊はどうであるか、勿論これとても早晩その運命を地球と同じくするのである。
 すなわち今でこそなお烈々たる勢いを放ちて、盛に燃焼しているが、早晩全く火気を失う時には、吾々の世界の滅亡する時だ、否早晩ではない、吾らは目前にこれを控えているではないか、新世界建設同盟会たるや、全くこの急を免れんとするために起ったのである」
 かく叫びながら彼はその座に復したが、代って起《た》った一人は、さらに世界滅亡時の悲観を詳説して曰《いわ》く、
「諸君恐怖時代は目前に来たのである、我系統の主公たる、かの天の太陽は、近き将来に於て滅尽しようとするのである、否我地球は、さらにそれよりも近く、全く破滅に
前へ 次へ
全8ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 小舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング