して種々に用ゐられしなるべけれど、頸輪に貫くが如きは主要なる事なりしと信ず。石器時代の曲玉と我々日本人の祖先の用ゐたる曲玉とは其性質に於て等しからざる所有り。彼此混ずべからず。
※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]圖第二に畫き集めたる玉類の中にて上段の右の端なるは栗色の石にて造れる物なり。所有主は理科大學人類學教室。次は緑色の石にて造れる物。兩面に各數個の切り目有り。但し表裏其紋を異にす。所有主は三宅長策氏。次は前と等しく緑色の石にて造れる物なれど切り目の付け方は相違せり。所有主は毛利昌教氏。次は鹿の角にて造れる物。所有主右に同じ。下の方に畫きたる二個の中、豆の莢の如き形したるは緑色の石にて造れる物。兩面に多くの切り目有り。所有主は高橋鑛吉氏。其下なるは鼠色の石にて造れる物。圓き部分の周邊に切り目有り。所有主は三宅米吉氏。
以上或は美しき原料を撰び或は巧みなる細工を施したるを以て考ふれば、是等の玉類は裝飾とするに足る物にして、一端に紐を貫く可き孔を穿ちたるが如きは誠に面白き事實と云ふべし。此他、池袋、馬込、新地等よりは徑三四分位の石製の小玉にて孔を有する物出でたる事有り。何れも頸の周圍抔に裝飾として着けし物ならん。右の上に畫きたるは女子が玉類を頸飾とせし体なり。[#地から7字上げ](續出)
[#改段]

     ○コロボツクル風俗考第二回(※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]畫參看)
[#地から1字上げ]理學士 坪井正五郎
       ●衣服
總説[#「總説」に白丸傍点] コロボツクルの衣服《いふく》に付きては口碑甚不完全なり。或地のアイヌはコロボツクルの男子《だんし》は裸体《らたい》なりし由《よし》云へど、そは屋内の事《こと》か屋外の事か詳ならず、且《か》つ女子は如何なりしか傳へず。又《また》或地《あるち》のアイヌはコロボツクルの女子《じよし》がアイヌに近寄る時には片袖《かたそで》にて口を覆《お》ひたりと云ひ傳ふ。女子が或種類の衣服を着せしとの事《こと》は深く考ふる要無し。男子の裸体《らたい》なりしとの事は輕々しく看過《くわんくわ》すべからず。アイヌは膚《はだ》を露す事を耻づる人民なり。住居の内《うち》たると外たるとを問はず裸体《らたい》にて人の前に出づる事無し。コロボツクルの男子中|果《はた》して衣服を着《つけ》ざる者有りとせばアイヌは實《じつ》に其|無作法《ぶさはふ》に驚《おどろ》きしならん。氣候の寒暖《かんだん》は衣服の有無を决定《けつてい》するものに非《あら》ず。テラデルフユウゴの住民は寒地に在りても裸体《らたい》にて生活す。彼のエスキモを見よ屋外に出《い》づるには温き衣服《いふく》を纒《まと》へども屋内に入れば男女の別《べつ》無く屡ば裸体となるに非《あら》ずや。生來の習慣と住居の搆造《こうぞう》とは寒地人民の裸体を許すものなり。習慣《しうくわん》を異にし住居を異にするアイヌとコロボツクルが裸体《らたい》に對《たい》する考へを等しうせざるは怪《あやし》むに足らず[#「足らず」は底本では「足らす」]。余はコロボツクルは衣服《いふく》を有《いう》すれど時《とき》としては屋内抔[#「屋内抔」は底本では「屋内坏」]にて之を脱ぐ事有りしならんと想像《そうぞう》す。以上は口碑に重《をも》きを置《を》きての説なり。之を土偶《どぐう》に徴するに、裸体のもの有《あ》り、着服のもの有りて前述《ぜんじゆつ》の諸事中|甚《はなはだ》しき誤無きを證す。
股引[#「股引」に白丸傍点] 土偶に據りてコロボツクルの服裝《ふくそう》を考ふるに、身体の上半は筒袖《つつそで》の上着を以て覆ひ、下半は股引を以て覆《お》ふ。着服の順序より云へば先づ股引に付いて述《の》ぶるを適當《てきたう》とす。此物に二種の別有り。第一種は普通《ふつう》の股引にして、膚《はだへ》に密接するもの、第二種は裁《た》ち付け袴の類にして、全体甚|寛《ゆる》やかに、僅に足首の所に於て固《かた》く括《くく》られたるもの。
第一種は模樣《もよう》に隨つて左の如く小別するを得。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(い)腰《こし》より足首迄の間に一行より五六行位の横線《わうせん》を畫《ゑが》きたるもの。是等の中には單《たん》に凹《くぼ》ましたるも有り亦朱にて彩《いろど》りたるも有り。
(ろ)腰より足首に達《たつ》する二條の縱線を畫きたるもの。
(は)腰より足首迄の間に十行計りの横線を畫きたるもの。
(に)腰の邊《へん》に一段の仕切りを爲して此中に種々《しゆ/″\》の小模樣を畫きたるもの。
[#ここで字下げ終わり]
第二種は左の二より成る。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
(い)無紋。
(ろ)曲線|連合《れんがふ》の模樣有るもの。
[#ここで字下げ終わり]
股引に二種類有るは何に由るか未詳。然れども乳房《にうばう》の部の膨《は》れ方少き土偶に限りて第二種を穿《は》きたる樣に作り有るを見れば或は此方は男子用にして第一種は女子用ならんか。エスキモ男子中には第二種と等《ひと》しき股引を穿く者有り。彼等の多數《たすう》は男子共に第一種と同樣なる形の股引を穿《は》く。原料の事は後に云ふべし」※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]圖中、右の上(根岸武香氏藏)、其下(加藤某氏藏)、其|斜《ななめ》に左の下(人類學教室藏)三個は第二種の好例《かうれい》なり。此他の脚部は皆第一種に屬す。
上着[#「上着」に白丸傍点] コロボツクルは身体の上半を覆ふに上着のみを以てせしか、他に膚着の類有りしか、知るに由無し。今は只上着のみに付きて記述《きじゆつ》を試《こころ》むべし。
上着にも慥《たしか》に二種の別有り。第一種は普通のフラネル製のシヤツの如く胸部《きやうぶ》より腹部《ふくぶ》に掛《か》けて縱《たて》に眞直に合はせ目有り。第二種は白シヤツの如く胸部に開《ひら》きたる所有りて腹部は左右《さゆう》連接《れんせつ》す之を着るには第一種に在つては紐《ひも》を以て諸所を括《くく》り、第二種に在つては胸部を開きたる儘《まま》にし、すでれ[#「すでれ」はママ]上部のみを紐にて止《と》めたるならん。第一種の方には略製《りやくせい》にして胸部の搆造《かうざう》詳《つまびらか》ならざるものも有れど大概は右に述《の》べしが如くなるべし。兩種共樣々の模樣《もやう》有り。殊に渦卷《うづま》き形を多しとす。第二種の上着は第二種の股引と相《あひ》伴《とも》なふ[#「伴《とも》なふ」は底本では「伴《とも》ふ」]に因つて思へば此物は男子の着用品ならんか。第一種の上着を着する土偶《どぐう》には乳房の部の膨《は》れ方甚きもの有り。是亦第一種の婦人《ふじん》用たるを示すものの如し。
※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]圖中、右の上、其下、左の端より二行目の中央《ちうわう》の三個は第二種の好例なり。([#ここから割り注]此他の土偶は皆人類學教室藏[#ここで割り注終わり])エスキモは現《げん》に是等と同樣なる上着を用う。
男女服裝の別[#「男女服裝の別」に白丸傍点] 土偶の用未だ詳ならざれば、其|模《も》したる物は男子のみの形か女子のみの形か、男女兩樣か明かに云ふ能はず。股引と上着とに各二種|宛《づつ》の別有るは地方の風《ふう》の異《ことな》るを示すものが階級《かいきう》の上下を示すものか是亦|疑《うたが》ひ無き能はざれど、其二種に限られしが如きと、兩樣の土偶一ヶ所より出づる事有るとは余《よ》をして土偶形状の別《べつ》は男女の別を示すものならんとの考へを強《つよ》からしむるなり。乳房《にうはう》の部の膨れ方に大小の差有るは尤も注意すべき事たり。余は有力《ゆうりよく》なる反證《はんしよう》を發見する迄は二樣の土偶は男女の相異を示すものとして記述《きじゆつ》すべし。
穿き物[#「穿き物」に白丸傍点] 土偶中には足の指を示したるものと然らざるものと有り。前者は素足《すあし》の形にして後者は穿き物を着けたる形ならん。但し穿き物の搆造は未だ詳ならず。
衣服の原料[#「衣服の原料」に白丸傍点] 石器時代の土器の中には表面に織《を》り物《もの》を押《お》し付けたる痕《あと》有るものあり。織り物には精粗《せいそ》の別あれど最も精巧《せいこう》なるは五分四方に、たて、ぬき共に十八あり。アイヌの製するアツシ織りは五分四方に、たて十四、ぬき十計り故、コロボツクルの織り物中にはアイヌの衣服原料《いふくげんれう》よりは更に精巧《せいこう》なるもの有りしなり。コロボツクルは獸の皮抔《かはなど》を以て衣服を作りし事も有らん。然れども土偶の衣服の部には他の土器の表面と同じく織り物を押し付けし痕有るもの少からず。既《すで》に衣服とするに足る織り物有り、土偶又織り物の痕を有す、余は少《すくな》くともコロボツクルの衣服の或る物は織り物を以て作《つく》りたりと確信《かくしん》す。此織り物の經緯《けいゐ》に用ゐたる糸は何より製せしや未だ明かならざれど、或る種類の植物線緯《しよくぶつせんゐ》なる事は疑《うたが》ふべからず。織り方は普通の布とは異れり。
裁縫[#「裁縫」に白丸傍点] コロボツクルが衣服を作るには皮《かは》にも有れ布にも有れ適宜の大さ適宜《てきぎ》の形に切りて之を縫《ぬ》ひ合はせし事勿論なり。筒袖と云ひ股引と云ひ一續きに作るを得べきものに非ず。切れ物は鋭き石の刄物《はもの》なるべく、針《はり》は骨にて作りたるものなるべし。是等の器具に付きては別に記す所有るべし。共に石器時代の遺跡《ゐせき》より出づ。
裝飾[#「裝飾」に白丸傍点] 衣服の裝飾《そうしよく》は紐《ひも》を縫《ぬ》ひ付け、又は糸にて縫ひ取り、又は繪の具にて塗《ぬ》りて作りしと思はる。土偶中には上着《うはぎ》の所々に赤き繪《ゑ》の具《ぐ》を付けたるも有り、股引に數個の横線 畫きたるも有るなり。
紐[#「紐」に白丸傍点] 紐は上着の襟《えり》を止める爲にも、股引を身に着ける爲にも必要にして、又|裝飾《そうしよく》にも欠く可からざる物なり。土器の表面の模樣中には紐《ひも》を押し付けし痕有り。是等を調査《ちやうさ》すれば種々の平打ち紐の有りし事を認むべし。其|原料《げんれう》は植物の皮《かは》なるが如し。
[#地から2字上げ](續出)
 附言 前回の※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]圖中、頭髮に關するものの外他は余の送りたる圖と其位置全く異りたる爲[#「余の送りたる圖と其位置全く異りたる爲」に傍点]説明更に合はず。余は責任者《せきにんしや》が讀者に對して謝《しや》する所有る可しと確信《かくしん》す。
[#改段]

     ○コロボツクル風俗考 第三回(※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]畫參看)
[#地から1字上げ]理學士 坪井正五郎
       ●冠り物
總説[#「總説」に白丸傍点] 冠り物に關しては口碑《こうひ》更に無し。併し土偶を調査《てうさ》すれば慥に二種有りし事知らるるなり。其一は通常《つうじやう》の帽子の如く頭上《とうぢやう》に戴くもの、其二は外套頭巾《ぐわいたうづきん》の如く不用の時は頭後に埀《た》れ置くを得るものなり。別種《べつしゆ》の冠り物も有りしやに見《み》ゆれど精くは言ひ難し。此所《ここ》には二種として説明《せつめい》すべし。原料《げんれう》として用ゐたるは獸皮或は織物《をりもの》ならん。
帽子[#「帽子」に白丸傍点] 土偶中には帽子《ばうし》を戴きたるが如くに作《つく》られたる物二個有り。一は鍔の幅廣《はばひろ》き帽子をば後部にて縱に截り、鍔《つば》の端《はし》をば下の方に引《ひ》きて且つ後頭部に押《を》し付けたるが如き形《かた》なり。此土偶は常陸國相馬郡小文間にて發見《はつけん》せし物にして岡田毅三郎氏の所藏《しよざう》(第一回の※[#「插」でつくり
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