ひ》、木皮抔《もくひなど》敷《し》き列《つら》ねて座臥の塲所とせしなるべし。室内《しつない》一部分には土間《どま》有りて此所《ここ》は火を焚《た》き、水瓶《みづがめ》を置く爲に用ゐられたるならん。土器《どき》石器《せきき》の中には小さき物あり、美《うつく》しき物あり。是等《これら》が床《とこ》の上に直に置《お》かれたりとは考ふる能はず。余は室内《しつない》には大小種々の棚《たな》の有りし事を信《しん》ずる者なり。入り口の他にも數個《すうこ》の窓《まど》有りしなるべければ、室内《しつない》は充分《じうぶん》に明《あかる》かりしならん。[#地から2字上げ](續出)
[#改段]

     ○コロボックル風俗考 第六回(挿圖參看)
[#地から1字上げ]理學士 坪井正五郎
    ●器具
衣食住の事は述《の》べ終《おは》りたるを以て是より器具《きぐ》の方に移るべし。コロボックルは如何なる器具を用ゐしやと云ふ事を考ふるには三つの據有り。其一はアイヌの傳ふる口碑《こうひ》、其二は遺跡《いせき》に存する實物、其三は土器形状模樣《どきけいじやうもやう》よりの推測《すいそく》是なり。
先づ噐具製造の原料を調査《てうさ》せん。
今日迄の實見と推測《すいそく》とに從ひ噐具を原料に由つて分類《ぶんるゐ》すれば左の如し。
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               ┌土器
  ┌無機…………………………┤
原料┤            └石器
  │  ┌植物……………………植物質噐具
  └有機│  ┌無脊動物………貝殼器
     └動物┤      ┌骨器
        └有脊動物……┤角器
               └牙器
[#ここで字下げ終わり]
尚ほ製法(打製、磨製等)功用(利器、容器等)用途(日用器具、漁獵具等)に由つても分類《ぶんるゐ》するを得れど、餘りに精密《せいみつ》に亘《わた》りて專門的に傾くは、畫報の記事として不適當《ふてきたう》なるの感無きに非ざれば、記載は見合はせ、一般讀者の便宜《べんぎ》を計り、直ちに各種の器具に就き説明《せつめい》を試む事とすべし。
    ●石製の利噐
既に緒言中にも記し置きたる通り、石器時代《せききじだい》とは、人類が主として石の刄物《はもの》を製造《せいぞう》使用《しよう》する時期の謂ひなれば、此時代の遺物中最も強く人の意を惹《ひ》くものは石器殊に石製の利器たる事勿論なり。コロボックルが石製の利噐を用ゐたりとの事はアイヌも口碑として云ひ傳へ居る事なるが、日本全國諸地方の石器時代遺跡より出づる石器中《せききちう》には、左に列擧《れつきよ》する如き種々の利器有り。
(第一)石を打ち欠きて作れる斧形《おのがた》の者。(之を打製石斧《だせいせきふ》と呼ぶ)。
(第二)石を研ぎ磨きて作れる斧形の者。(之を磨製石斧《ませいせきふ》と呼ぶ)。
(第三)石を打ち欠きて作れる槍形《やりがた》の者。(之を石槍《いしやり》と呼ぶ)。
(第四)石を打ち欠きて作れる鏃形《やじりがた》の者。(之を石鏃《せきぞく》と呼ぶ)。
(第五)石を打ち欠きて作れる錐形《きりがた》の者。(之を石錐《いしきり》と呼ぶ)。
(第六)石を打ち欠きて作れる匕形《さじがた》の者。(之を石匕《いしさじ》と呼ぶ)。
以上を主要《しゆえう》なるものとす。
    ●打製類
總説[#「總説」に白丸傍点] 石製の利器《りき》を見るに、刄の部分|打《う》ち欠《か》きて作られたるものと、研ぎ磨きて作られたるものと、の二類有り。第一類に屬するものを、打製石斧、石槍、石鏃、石錐、石匕、等とす。是等石器の製法用法は現存《げんぞん》未開人民《みかいじんみん》の所爲《しよゐ》に由つても充分に推考《すゐこう》するを得るなり。
打製石斧[#「打製石斧」に白丸傍点] 打製石斧《だせいせきふ》は通例《つうれい》長《なが》さ三寸計りにして、其形状《そのけいぜう》は長方形、橢圓形、分銅形等なり。刄《は》は一端に在る事有り、兩端《れうたん》に在る事有り。或る物は手にて直《ただち》に握《にぎ》りしなるべく、或る物には柄《つか》を括《くく》り付けしならん。使用《しよう》の目的は樹木《じゆもく》を扣《たた》き切《き》り、木材を扣き割り、木質《ぼくしつ》を刳《けづ》り取り、獸《じう》を斃《たふ》し、敵《てき》を傷《きづつ》くる等に在りしと思はる。未開社會《みかいしやくわい》に於ては器具《きぐ》の上にも分業《ぶんげう》起《おこ》らざるを常とす。一個の打製石斧《だせいせきふ》もコロボックルの爲には建築、造船、獸獵、爭鬪に際して、極《きわ》めて肝要《かんえう》なる役目を勤めしなるべし。是等の事はアウストラリヤ、クインスランド土人の現状《げんぜう》に徴して推考《すゐこう》するを得るなり。
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