石槍[#「石槍」に白丸傍点] 此石器は長さ二三寸より五六寸に至り、扁平《へんぺい》にして紡錘形[#「紡錘形」は底本では「紡錐形」]或は菱形《ひしがた》をなすものなり。現存石器時代人民中には、此の如き物に短《みぢか》き柄《え》を添《そ》[#ルビの「そ」は底本では「お」]へて短刀《たんとう》の如くに用ゐ、或は長き柄を添へて槍《やり》とする者有り。中央《ちうわう》アメリカ發見《はつけん》の古器物中には此類の石器に短《みぢか》き柄を付け寄《よ》せ石細工を以て之を飾《かざ》れる物在り、又一手に首級《しゆきう》を抱《かか》へ他手に石槍形の匕首を携《たづさ》へたる人物の石面彫刻物《せきめんてうこくぶつ》有り。然れば形状に由りて等《ひと》しく石槍と稱する物の中には、其用より云へば、槍も有るべく、短刀《たんたう》も有るべきなり。フランス、ベリゴードの洞穴《どうけつ》よりは馴鹿の脊椎に石槍の立ちたる物を發見せし事有り。思《おも》ふにコロボックルも石槍をば兩樣に用ゐ、時としては其働《そのはたら》きを食用動物《しよくようどうぶつ》の上に施《ほどこ》し、時としては之を人類の上に施せしならん。石槍を柄《え》に固着する爲には木詣《やに》の類と植物の皮又は獸類《じゆうるい》の皮を細くしたるものを併せ用ゐしなるべし。
石鏃[#「石鏃」に白丸傍点] 石鏃《せきぞく》は通例《つうれい》長さ六七分にして其形状一定せざれど、何れも一端|鋭《するど》く尖《とが》り、左右常に均整《きんせい》なり。此種の石器|夥多《あまた》の中には石質美麗《せきしつびれい》、製作緻密《せいさくちみつ》、實用に供するは惜ししと思はるる物無きに非ず。小に過《す》ぎて用を爲さざる物有り、赤色《あかいろ》の色料《しよくれう》を塗《ぬ》りて明かに裝飾《かざり》を加へし物有り。是等は玩弄品《ぐわんろうひん》か裝飾品か將《は》た貨幣《くわへい》の如き用を爲せし物《もの》か容易《ようゐ》に考定《かうてい》する事能はずと雖も、石鏃《せきぞく》本來の用及ひ主要《しゆゑう》の用は、此所に掲《かか》げたる名稱《めいせう》の意味《いみ》する通り、矢《や》の先《さき》に着けて目的物《もくてきぶつ》を傷くるに在るや必せり。アメリカ土人中には現《げん》に石鏃を使用する者有り。ニウジヤアシイにては人類の前頭骨に石鏃の立ちたる儘《まま》の物を發見し、チリのコピアポにては人類の第二の脊椎に石鏃《せきぞく》の立ちたる儘《まま》の物を發見《はつけん》し、フランスのフヲンリヤルにては人類の脛骨《けいこつ》に石鏃の立ちたる儘《まま》の物を發見したる事有り。本邦《ほんほう》に於ては未だ斯《か》かる發見物無しと雖も石鏃の根底部《こんていぶ》或は把柄《ひしやく》に木脂《やに》を付けたる痕を留むる物往々有りて能く※[#「竹かんむり/可」、78−下−10]《やがら》を固着せし状を示せり。矢有れは弓有り、弓有れば絃《げん》有り。コロボックル遺跡《ゐせき》に石鏃の現存するは、間接《かんせつ》に彼等が※[#「竹かんむり/可」、78−下−12]《やがら》、弓及び絃を有せし事を證《しよう》するものと云ふべし。矢には羽根《はね》を付くる事有りしや否《いな》や考《かんが》ふるに由無し。※[#「竹かんむり/可」、78−下−13]は細き竹或は葭《よし》を以て作り、弓は木或は太《ふと》き竹を以て作りしならん。絃《げん》の原料は植物の皮或は獸類《じゆうるゐ》の皮を細く截《き》りしものなりし事|勿論《もつろん》なれど、余は此絃には好《よ》く撚《よ》りを掛《か》け有りしならんと考ふ。そは土器表面|押《お》し付け模樣《もよう》の中に撚りを掛けたる紐《ひも》の跟《あと》有るを以て推察《すゐさつ》せらる。撚りの有無と絃《つる》の強弱《きよじやく》との關係は僅少の經驗《けいけん》に由つても悟《さと》るを得べき事なり。弓矢は鳥獸獵《てうじゆうれう》に於ても用ゐられしなるべく、人類|同志《どうし》の爭鬪《さうとう》に於ても用ゐられしならん。或は海獸大魚を捕獲《ほくわく》するに際《さい》しても用ゐられし事有る可きか。水中に矢を射込む事其|例《れい》無《な》きに非ず。石鏃は石器時代|遺跡《ゐせき》に於て他の遺物《ゐぶつ》と共《とも》に存在《ぞんざい》する[#「共《とも》に存在《ぞんざい》する」は底本では「共《ともぞ》に存在《んざい》する」]を常とすれど、左の諸所にては山中に於て單獨《たんどく》に發見されし事有るなり。
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(一)山城國比叡山頂     (山崎直方氏報)
(二)信濃國大門峠      (若林勝邦氏報)
(三)飛彈國神岡鑛山     (西邑孝太郎氏報)
(四)同國大西峠頂上     (田中正太郎氏報)
(五)同國高城山絶頂     (同氏報)
(六)羽
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