つくり/火」、第3水準1−87−52]《に》たるものも其一ならん。或は酒《さけ》に似《に》たる嗜好品《しこうひん》有りしやも知る可からず。
●食ひ物
口碑《こうひ》に從へばコロボツクルは漁業《ぎよげふ》に巧《たくみ》にして屡ばアイヌに魚類を贈《おく》れりと云へり。今諸地方貝塚よりの發見物《はつけんぶつ》を檢《けん》するに、實に魚骨魚鱗等有り。然《しか》れども彼等の食物《しよくもつ》は决《けつ》して魚類に限《かぎ》りしには非ず。そは發見物《はつけんぶつ》に由つて充分《じうぶん》に證《しやう》する事を得るなり。
貝塚は如何にして作《つく》られたるか。總《すべ》てに通じて斯く斯くなりと斷言《だんげん》する事は出來ざれど、主として物捨て塲なりと思へば誤《あやま》り無し。貝塚の中よりは用に堪えざる土噐の破片出で、又折れ碎けたる石噐出づ。獸類《じうるい》の遺骨《いこつ》四肢《しし》所《ところ》を異《こと》にし二枚貝は百中の九十九迄|離《はな》れたり。遺跡《ゐせき》を實踐《じつせん》して考ふるも、之を現存《げんそん》未開《みかい》人民の所業に徴するも、貝塚に於ける穿鑿《せんさく》が食物原料調査《しよくもつげんれうてうさ》に益有る事、實に明々白々なり。我々は牛肉《ぎうにく》を食《くら》へども我々の邸内《ていない》に在る物捨て塲に於て牛骨を見る事は期《き》し難《がた》し。是自家|庖廚《はうちう》の他に牛肉|販賣店《はんばいてん》有るに由る。未開社會《みかいしやくわい》に於いては事情《じじやう》大に異《こと》なり、食物の不要部は總《すべ》て自家の物捨て塲、或は共同の物捨て塲に捨てらるるなり。此故にコロボツクルの食物は如何なる物なりしかとの事を知らんと欲《ほつ》せば宜く貝塚を發掘《はつくつ》して諸種の遺物《いぶつ》に注意すべきなり。貝塚より出でたる動物的遺物《どうぶつてきゐぶつ》にして其軟部は食用《しよくよう》に供されしならんと考へらるる物を列擧《れつきよ》すれば大畧左の如し
貝の類[#「貝の類」に白丸傍点] あはび つめたがひ きしやご うづらがひ あかにし かじめくひ さざえ たにし ばい ながにし いはやがひ ほたてがひ ししがひ さるぼう あかがひ まて ささらがひ いせしろがひ ささめがひ とりがひ あさり うばがひ みるくひ おほのがひ しじみ しほふき ばか はまぐり ゐがひ たひらぎ めんがひ いたぼ かき(名稱は丘淺次郎氏に從ふ)
他の軟体動物[#「他の軟体動物」に白丸傍点] いか
魚の類[#「魚の類」に白丸傍点] たひ あかえい(此他種々の骨及ひ鱗有れど何に屬するや未だ詳ならず)
龜の類[#「龜の類」に白丸傍点] うみがめ
鳥の類[#「鳥の類」に白丸傍点] 種々有れど明記し難し。
哺乳動物[#「哺乳動物」に白丸傍点] くじら いのしし しか ひと(此所に「ひと」と云ふ事を記《しる》したるに付ては異樣《ゐよう》に感《かん》ずる讀者も有らん。順次《じゆんじ》記す所を見て疑《うたが》ひを解《と》かれよ。)
●調理法
余は貝塚に於ける遺物《ゐぶつ》に就《つい》て動物性食物の原料《げんれう》を調査《てうさ》したり。コロボツクルは植物性食物をも有《ゆう》せしに相違《そうゐ》無けれど、如何なる種類《しゆるい》の如何なる部が常食として撰《えら》ばれしや嗜好品として撰ばれしや、考定《かうてい》の材料不足《ざいりやうふそく》にして明言《めいげん》する能はず。口碑更に傳《つた》ふる所無く、遺跡《ゐせき》亦之を示すべき望み少《すくな》し。調理法を述《の》ぶるに當つても確證《かくしやう》は唯動物性食物に取るのみ。
コロボツクルは食物を生《なま》にても食《くら》ひ又火食をもせしならん。
遺跡には灰有り、燒け木有り。コロボツクルは如何にして火を發《はつ》したるか。余は先《ま》づ此事《このこと》を述べて後に煮燒の事に説き及ぼすべし。
未開人の發火法《はつくわはう》に二大別有り。一は摩擦《まさつ》の利用《りよう》にして、一は急激《きうげき》なる衝突《しやうとつ》の利用《りよう》なり。木と木の摩擦《まさつ》も火を生じ、石と石或は石と金の衝突《しやうとつ》も火を生ず。最《もつと》も廣《ひろ》く行はるるは摩擦發火法《まさつはつくわはう》なるが是に又一|片《へん》の木切れに他の木切れを當《あ》てて鋸《のこぎり》の如くに運動《うんどう》さする仕方《しかた》も有り、同樣にして鉋《かんな》の如くに運動《うんどう》さする仕方も有り一片の木切れに細《ほそ》き棒《ぼう》の先を當てて錐《きり》の如くに揉《も》む仕方《しかた》も有るなり。コロボツクルは何《いづ》れの仕方に從《したが》つて火を得たるか。直接《ちよくせつ》の手段《しゆだん》にては到底《たうてい》考ふ可から
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