寒冷《かんれい》なりしならんとの事を想像《さうざう》するなり。[#地から1字上げ](續出)
[#改段]
○コロボツクル風俗考 第四回
[#地から1字上げ]理學士 坪井正五郎
●飮み物
服飾《ふくしよく》の事は前回にて記《しる》し終《おは》りたれば是より飮食の事を記すべし先づ飮《の》み物には如何なる種類《しゆるゐ》有りしかと云ふに、人生《じんせい》欠《か》く可からざる水は勿論《もちろん》、此他に酒《さけ》とか汁《しる》とか云ふ如き或る嗜好飮料《しこうゐんれう》も有りしが如し。此|考《かんが》への據《よりどころ》は後に至つて明かならん。
未開社會に於ては井戸《ゐど》を掘《ほ》る術、水道を設《まう》くる術も無き譯故《わけゆへ》、コロボツクルの如きも、水の入用《にうよう》を感《かん》じたる時には必ず川邊に至りしならん。遺跡《ゐせき》より發見《はつけん》する所の土器の中には椀形《わんがた》のもの少からず。是等は實《じつ》に水を汲《く》み水を飮《の》むに適《てき》したるものなり。又水を貯《たくわ》へ置くに用ゐしならんと思《おも》はるる瓶鉢の類も發見品中に存在《そんざい》す。今日迄に知《し》れたる土器の中にて最も大なる物も直徑一尺五寸に達《たつ》せず。現に我々の使用《しよう》する水瓶《みづがめ》に比しては其|容量《ようりやう》誠に小なりと云ふべし。思《おも》ふにコロボツクルは屋内《おくない》に數個の瓶鉢類を並列《へいれつ》して是等に水を貯《たくわ》へ置《お》きしならん。
遺跡發見物中には灰《はい》も有り燒《や》けたる木片《ぼくへん》も有りてコロボツクルが火《ひ》の用《よう》を知り居りし事は明なるが、鉢形《はちがた》鍋形《なべがた》の土器の中には其外面の燻《くす》ぶりたる物も有れば、湯《ゆ》を沸《わ》かし、食物を煮《に》或るは羹《あつもの》を作る事の有りしをも推知《すいち》せらる。灰及び[#「及び」は底本では「及ひ」]燒け木は竪穴《たてあな》の隅《すみ》より出づる事有り、又《また》貝塚の中より出づる事有り。飮食物《いんしよくぶつ》の煮焚《にた》きは屋内にても爲し又屋外にても爲せしが如し。
余は既に土器の中に湯水《ゆみづ》を飮むに適《てき》したる椀形《わんがた》のもの有る事を述べしが、別に急須形《きうすがた》のもの有り。其|製作形状《せいさくけいじやう》等に付ては土器の事を言ふ折《お》りに細説《さいせつ》すべけれど、大概《たいがい》を述ぶれば其|全体《ぜんたい》は大なる算盤玉《そろばんだま》の如くにして横《よこ》に卷煙草《まきたばこ》のパイプを短《みぢか》くせし如き形の注《つ》ぎ出し口付きたり。此噐の用は未《いま》だ詳ならざれど[#「ならざれど」は底本では「ならざれと」]之《これ》を手に取りて持ち加減《かげん》より考ふるに、兩方《りやうはう》の掌を平らに並《なら》べ其上に此噐を受け、掌を凹《ひく》くして噐の底《そこ》に當て、左右の拇指《おやゆび》を噐の上部に掛《か》けて噐を押《お》さへ、注《つ》ぎ出し口を我か身の方に向け之に唇を觸《ふ》れて器を傾《かたむ》け飮料を口中に灌《そそ》ぎ込《こ》みしものの如く思はる。
又小形の御神酒|徳利《とくり》に似《に》たる土噐にて最も膨《ふく》れたる部分に圓《まろ》き孔《あな》を穿《うが》ちたるもの有り。是《これ》も用法|不詳《ふしやう》なれど、煙管《きせる》のラウの如き管《くだ》をば上より下へ傾《かたむ》け差《さ》し込《こ》み、全体《ぜんたい》をば大なる西洋煙管の如くにし、噐中に飮《の》み物《もの》を盛《も》りて管より之を吸《す》ひしやに考へらる。
以上の二種の土器《どき》は或る飮料《ゐんれう》をば飮み手の口に移《うつ》す時に用ゐし品の如くなれど、土瓶《どびん》或は急須《きうす》と等《ひと》しく飮料を貯《たくわ》へ置き且つ他の器に灌《そそ》ぎ込《こ》む時に用ゐし品と思《おも》はるる土噐も數種《すうしゆ》有《あ》り。
是等種々の土器の存在《そんざい》に由つて考《かんが》ふるにコロボツクルの飮み物は湯水《ゆみづ》のみには非《あら》さりしが如し。灌《そそ》ぎ出すに用ゐたりと見ゆる土噐唇に觸《ふ》れたりと見ゆる土噐の容量《ようりやう》、比較的《ひかくてき》に小なるは中に盛りたる飮料《ゐんれう》の直打《ねう》ち湯水よりは貴《たふと》きに由りしならん。余は普通《ふつう》の水、普通の湯をば斯《か》かる器より灌《そそ》ぎ、斯かる器より飮みしとは信《しん》ずる事|能《あた》はざるなり。
湯水の他の飮料《ゐんれう》とは如何なるものなりしや。鳥獸魚介《てうぢうぎよかい》の※[#「睹のつくり/火」、第3水準1−87−52]汁も其一ならん。草根木實《そうこんもくじつ》より採《と》りたる澱粉《でんふん》を※[#「睹の
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