は、石器製造を好《この》む者《もの》は多くの石器を造《つく》り、土器製造《どきせいぞう》を好《この》む者《もの》は多くの土器《どき》を造《つく》り互に余分の品を交換《こうかん》すると云ふか如き事《こと》も有《あ》りさうなる事《こと》ならずや。余《よ》は固よりコロボックル中に斯く斯くの職業《しよくげふ》有《あ》り、何々の專門《せんもん》有《あ》り抔との事は主張《しゆちやう》せざれど、上來述べ來《きた》りし程の知識《ちしき》有る人民中《じんみんちう》には多少の分業は存せざるを得ずと思考《しこう》するなり。
    ○貿易
アイヌの口碑に由ればコロボックルはアイヌと物品交換《ぶつぴんこうくわん》をせしなり。コロボックルの方より持《も》ち來《きた》りし品《しな》は何かと云ふに、或る所《ところ》にては魚類《ぎよるい》なりと云ひ或《あ》る所《ところ》にては土器《どき》なりと云ふ。恐《おそ》らく兩方《りやうほう》ならん。交換《こうくわん》の方法コロボックル先づ何品かを携《たづさ》へ來《きた》りアイヌの小家の入《い》り口又は窓《まど》の前《まへ》に進み此所にてアイヌの方より出す相當《そうとう》の品《しな》と引き換《か》へにせしものなりとぞ。斯く入り口又は窓《まど》を隔《へだ》てて品物の遣《や》り取《と》りを爲《な》せしは同類《どうるい》の間ならざるが故《ゆえ》ならん。コロボックル同志《どうし》ならば親《した》しく相對して事《こと》を辨《べん》ぜしなるべし。余は不足《ふそく》の品《しな》と余分の品《しな》との直接交換《ちよくせつこうくわん》のみならず、必要以外の品と雖も後日《ごじつ》の用《よう》を考へて取り換へ置く事も有りしならんと思惟するなり、斯かる塲合《ばあい》に於ては美麗《びれい》なる石斧石鏃類は幾分か交換の媒《なかだち》の用を爲せしならん。[#地から1字上げ](未完)
[#改段]

     ●コロボックル風俗考 第十回(挿圖參看)
[#地から1字上げ]理學士 坪井正五郎
    ○交通
石器時代遺跡は琉球より千島に至るまで日本諸地方に散在《さんざい》する事挿圖中に示《しめ》すが如くなるが、是等は恐《おそ》らく同一人民の手に成りしものなる可し。各遺跡を一々|檢査《けんさ》し相互に比較《ひかく》したりとは斷言《だんげん》し難けれど、日本諸地方の石器時代遺跡中には互に異《ことな》
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