いさう》の類にして、是等は唯《ただ》有りの儘《まま》の形にて存在《そんざい》したるのみ。植物質《ちよくぶつしつ》の器具《きぐ》に至つては未だ一品も出でたる事無し。木にもせよ、竹にもせよ、草《くさ》にもせよ、植物質の原料《げんれう》にて作りたるものは腐敗《ふはい》し易き事|勿論《もちろん》なれば、其今日に遺存《いぞん》せざるの故を以て曾て存在《そんざい》せざりし證とは爲すべからず。現《げん》に土器《どき》底面中《ていめんちう》には網代形《あじろかた》の痕《あと》有るもの有り、土器形状|模様《もよう》中には明かに籠の形を摸《も》したるもの有り、コロボックルが籠の類《るい》を有せし事は推知《すいち》し得べきなり。
アイヌ間に存《そん》する口碑《こうひ》に由ればコロボックルは又|木製《もくせい》の皿をも有《いう》せしが如し。
既に服飾《ふくしよく》の部に於ても述《の》べしが如く、土器《どき》表面《ひやうめん》の押紋《おしもん》を※[#「てへん+僉」、第3水準1−84−94]すれば、コロボツクルが種々《しゆ/″\》の編《あ》み物、織り物、及び紐《ひも》の類を有せし事《こと》明《あきら》かにして、從つて袋《ふくろ》を製《せい》する事抔も有りしならんと想像《そうざう》せらる。
以上《いじよう》諸種《しよしゆ》の植物質器具は食物其他の物品《ぶつぴん》を容るるに用ゐられしならん。
    ●日常生活
前々《ぜん/\》より述べ來《きた》りしが如き衣服《いふく》を着《き》、飮食《いんしよく》を採り、竪穴に住ひ、噐具を用ゐたる人民《じんみん》、即ちコロボックル、の日常生活《にちじようせいくわつ》[#ルビの「にちじようせいくわつ」は底本では「につじようせいくわつ」]は如何なりしか、固《もと》より明言《めいげん》するを得る限《かぎ》りには非ざれど試《こころ》みに想像《そうぞう》を畫きて他日精査を爲すの端緒《たんちよ》とせん。
余《よ》は曾てコロボックルは人肉《じんにく》を食《くら》ひしならんとの事を云ひしが、此風習《このふうしふ》は必しも粗暴猛惡《そぼうまうあく》の民《たみ》の間にのみ行はるるには非ず、且つ人肉は决して彼等《かれら》の平常《へいじよう》の食料《しよくれう》には非ざりし事、貝塚の實地|調査《てうさ》に由りて知るを得べければ、此一事《このいちじ》はコロボックルの日常の有樣《ありさま
前へ 次へ
全55ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坪井 正五郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング