。刄は殆と悉皆一端のみに在《あ》りと云つて可なり。理科大學人類學教室《りくわだいがくじんるゐがくけうしつ》には磨製石斧三百|個《こ》計り有れど、兩端《りやうたん》に刄有るものは唯《ただ》一|個《こ》のみ。コロボックルは磨製石斧を何《なん》の目的《もくてき》に用ゐしや。固《もと》より確言する能はざれど、現存《げんぞん》石器時代人民《せききじだいじんみん》の所爲を以て推す時は、是等は石器の用は食料《しよくれう》の肉を切り、木質《もくしつ》を削り、人獸を傷《きづつ》くるに在りしと思はる。極《きは》めて大なる物及び極めて小《せう》なる物《もの》に至つては實用有りしとは認《みと》め難し或は標章《へうしやう》玩具《ぐわんぐ》の類なりしならんか。磨製石斧は手《て》にて直に握《にぎ》られし事も有るべけれど斧の如くに柄を添へて用《もち》ゐられし事も在りしと見ゆ。武藏國大里郡《むさしのくにおほさとごほり》冑山村の土中よりは柄《ゑ》の着《つ》きし儘なる磨製石斧|出《い》でし事有り。柄は木質にて朽《く》ちて居りし事故、如何《いか》なる方法にて石斧《いしおの》を括《くく》り付けしか詳ならされど、其状《そのじやう》現今《げんこん》行《おこな》はるるタガネと大差《たいさ》無かりしならん。
製法[#「製法」に白丸傍点] 磨製石斧の製法《せいはふ》は現存石器時代人民の爲《な》す所に由《よ》つても知《し》るを得れと、遺跡《ゐせき》に於て獲《う》る所の截《き》り掛《か》けの凹《くぼ》み有る石片截り目を存する石斧《いしおの》、刄《は》の鈍《にぶ》きもの刄の鋭きもの、截り取りたる石屑《いしくづ》及び砥石《といし》に用ゐしと思《おも》はるる石器等を比較《ひかく》すれば、正しくコロボックルが磨製石斧を作《つく》りたる順序《じゆんじよ》を知るを得るなり。石を摩《す》り截るには木の小枝抔《せうしなど》を採り、其の一端へ堅《かた》き砂《すな》を付けて之を握り墨を摺《す》る時の如くに手を前後《ぜんご》に動《うご》かし、一面より摩り初めて凹みの深《ふか》さ石の厚さの半《なかば》に達したる頃《ころ》、石《いし》を裏返《うらかへ》しにして再び他面に溝《みぞ》を作り、兩面よりの截《き》り目《め》殆んと相《あひ》連《つら》なるに及んで、石の一|部分《ぶぶん》を強《つよ》く打ち之《これ》を他の部分より取り離したるならん、石《いし》
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