間には甞て道路存在せしなるへけれど、此所と云ひて指示《しぢ》するを得る所は未だ發見せす。今交通の事を述へたる後に熟考《じゆくかう》するに、一部落と他部落との間には、人々の多く徃來《わうらい》する所、即ち多くの人に蹈《ふ》まれて自《おのづか》[#ルビの「おのづか」は底本では「お」]ら定まりたる道路の形を成せる所有りしならんとは推知せらるるなり。コロボックルの住居《すまゐ》には直徑五六間のもの徃々有り。是彼等が長大なる木材を用ゐし事有るを間接《かんせつ》に示すものなり。(第五回參照)コロボックルにして長大なる木材を用ゐたりとせんか、既に衣服有つて其水に潤ふを厭ふべき彼等《かれら》が、細流《さいりう》の上に丸木橋を架して徃來に便にする事を思ひ付かざる理有らんや。余は未だ[#「未だ」は底本では「未ば」]確證を得ざれども、推理及び現存未開人民の例に由りて、コロボックルは恐らく橋を有せしならんと考ふるなり。
○運搬
コロボックルが舟を用ゐしとの事はアイヌの[#「アイヌの」は底本では「アイヌノ」]口碑に存す。但し其舟は丸木舟《まるきふね》のみならずして、草《くさ》を編《あ》みて作れる輕き物も有りと云へり。前にも述《の》べし如く、コロボックルは銛《もり》の類にて魚《うを》を捕《と》りし事も有り、網《あみ》を以て魚を捕りし事も有りしは明《あきら》かなれば、或る種類《しゆるゐ》の舟も存在せしならんとは推知さるる事ながら、そは丸木舟《まるきふね》の如き物なりしなるべく、草を編みたる物抔《ものなど》とは思ひも由《よ》らざる事なり。然《しか》らば此|輕《かる》き舟とは何を指《さ》すかと云ふに、口碑に隨へば、こは陸上にて荷《にな》ひ易《やす》く、水上にては人を乘するに足《た》る物なりとの事なり。エスキモ其他|北地《ほくち》現住民の用ゐる獸皮舟は是に似《に》たり。陸上にては使用者《しようしや》之を荷ひ、水上にては使用者是に乘る、誠に輕便《けいべん》なる物と云ふへきなり。所謂草とは如何なる物か詳ならされと、丸木舟とは構造《こうざう》を異にする一種の舟、恐らくは木の皮抔にて造りたる舟、も存在せしなるべし。(第三回挿圖參照)是等二種の舟は、人の往來、諸物の運送《うんそう》に際して等しく用ゐられしならんと考へらる。
○人事
出産、保育、結婚《けつこん》等の人事に關しては未だ探究《たんきう
前へ
次へ
全55ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坪井 正五郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング