る。都の人達はみんな利己主義です。享楽《きょうらく》主義です。自分の利慾しか考えない。自分の享楽しか考えない。みんな自己本位の狭隘《きょうあい》なる世界に立籠《たてこも》っています。都は虚偽にみちみちています。真の道徳は地を払ってしまった。……自己の栄達のためには、どんな不道徳なことでもしかねません。他人の幸福のことなど、微塵《みじん》も考えてくれやしません。あなたが都へ連れて行かれたら、それこそ不幸のどん底につき落されるのですよ。あなたは一生涯泣いて暮らさねばならなくなるのです。
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こがねまるが戻って来た。二人の話を聞いている。
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文麻呂 なよたけ。大納言は……絶対にまごころを持っているひとではありません。決して、あなたの美しいこころねの分るひとではありません。ただ、あなたのかおかたちの美しさに幻惑《げんわく》されて、あなたを騙《だま》そうとしているのです。あなたのこころが分るひとは自然のこころの分るひとだけです。自然のこころとは愛です。恵みです。あなたの心を知り得るひとは、この自然のこころを
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