行……私です。
造麻呂 (はっとしたように、その忍びのいでたちをした御行の姿を打ち眺める)
御行 (なにやら勝ち誇ったように)……私なのです。……
[#ここから2字下げ]
琴の音。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
造麻呂 (次第次第に平伏《へいふく》して行く)……それは、それは……ちっとも存じ上げませんでした。……何と云う勿体ないことでござりましょう。大納言様でいらっしゃいましたか?………このような人里離れた下人《しもびと》の賤《しず》が家《や》にしげしげとお通いなさる御方が、よもや大納言様でいらっしゃろうとは、この爺《じい》め、夢にも考えてはおりませなんだ。……どうぞ、これまでの失礼の数々は、平《ひら》に御容赦《ごようしゃ》下されませ。……御容赦下されませ。
御行 いや、何もそんなにかしこまらなくったっていいんですよ、お爺さん。……大納言だからって、何もとって食べるわけじゃあるまいし、……ただ、私のなよたけに対する誠意がお爺さんにも通じてくれれば、こんな嬉《うれ》しいことはありません。
造麻呂 なよたけはしあわせものでございます。さような思いを
前へ
次へ
全202ページ中73ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 道夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング