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下人《しもびと》の憧《あこが》れる、華かな詩歌管絃《しいかかんげん》の宴《うたげ》も、彼にとっては何でしたろう? 移ろい易《やす》い栄華《えいが》の世界が彼にとっては何でしたろう? 花をかざして練り歩く大宮人《おおみやびと》の中に、ただ彼のみは空しくもまことのこころを求め続けていたのです。美しい夢を追い続けていたのです。
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琴の音。
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(夢みるように)……遠い、遥かな夢の野に、あてどもなく、涯《はて》しもなく、ただ彷徨《さまよ》いあるく彼でした。………
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うつせみの世は
花まごうみやびとに
まことのこころ
いかでもとめむ……………
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苦しい旅路でした。耐え難くもすさぶ心を抑《おさ》えながら、昨日は西、今日は東とさすらい求めていたのです。本当に苦しい、それは忍従そのものでした。
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琴の音。
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(次第に激して行く)それが、どうでしょう。ねえ、お爺さん、とうとう報いられたのです。今こそ、まことのこころを持った女《ひと》にようやく廻《め
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