早く見とうござります。
綾麻呂 いや何も別にお前には見せないと云うわけではない。ただあの不甲斐《ふがい》ない息子が一時も早く迷いの夢から覚めてくれれば、と思っているのだ。あの崇厳な不尽《ふじ》ヶ|嶺《ね》の姿をみれば、少しは気持が落着いてくれるだろう。……全く、あいつは不甲斐のない男になってしまったものだ。
衛門 まあ、旦那様。そっとしておいておやりなさいまし。……お若い方の気持はもう私どもには分りませぬ。
綾麻呂 衛門。……お前は文麻呂のことになると何だか妙に偉そうに肩を持つようだが、あれのことについて何かもっと他《ほか》に儂にかくしているようなことはないのかい? ただ、親しい友達と仲違《なかたが》いをした位であんなになってしまうとは儂にはとても考えられんのだよ。あれは以前はもっと陽気な奴じゃった。口泡を飛ばして儂などとも盛んに議論をしたりしたものだ。……それが、どうしたわけか、あんな無口の偏屈者になって儂の所にやって来よった。お前は、なに神経衰弱です、などと簡単に片附けるが、儂はそんな生やさしいものではないように思う。儂はどうも心配でならんのだよ。あのままでは、到底、この東の国の厳
前へ
次へ
全202ページ中179ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
加藤 道夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング