儂はまるでつい昨日のことのように覚えている。あの子は山鴿が鳴き始める頃になるときまって唄をうたい出したものじゃ。山のわくらべどもと一緒になって、可愛い声を出して唄をうたい出したものじゃ。……儂にはもうそれさえ聞えなくなってしもうた。あれはもう二度と儂の前に姿をあらわしては来ぬような気がする。あれにはもうこの儂が必要ではなくなったのじゃ。なよたけのかぐやは竹取翁を見離して行きまする。この儂を見棄《みす》てて、貴方のものになるのじゃ。あれにはもうこの竹の里は要《い》らぬものになってしもうた。……御覧なされ。なよたけを失うたこの伝えの里はだんだんと荒れすさんで行きまする。……おう、風じゃ。滅《ほろ》びの風が吹きつのりはじめた、……この伝えの里は儂と共に滅びて行きまするのじゃ。……お願い致しまするぞ。儂に代ってなよたけのいいつたえを信じて下され。儂に代ってなよたけを夢みて下され。
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竹の葉に不気味な音を立てて、強い風が吹きつのり始めた。竹の落葉が烈しい渦《うず》を巻いて、二人の足許に乱れ散り始める。風の音に交って、不安げな山鴿の声、しきり。
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