うであった。儂《わし》が何かやまいで気分が悪しく、胸内が苦しいような時でも、あの子が眼の前にあらわれると、おのずとその苦しさが止むのじゃ。また、何か無性《むしょう》に腹の立つ時でも、あの子があらわれれば、やんわりと心が静まってしまうのじゃ。……なよたけのかぐやはこの儂のたったひとつの生《い》き甲斐《がい》じゃった。……そうこうするうちにあれは眼の覚めるような綺麗《きれい》な娘になって行った。世の中の男どもは、あれの美しさに惹《ひ》きつけられて、我も我もとこの儂のところに云い寄って来ては、執拗《しつこ》くあれを所望したが、誰《だれ》も彼もみな一時の浮気心であれを我物にしようとする色好みの愚《おろ》か者《もの》ばかりなのじゃ。あれの生い立ちを話して聞かせても、一人として信ずる者はおりませなんだ。儂の話を本当にせぬばかりか、終いには、皆、寄ってたかってこの儂を物狂い扱いにして、見向きもせんようになってしもうた。儂はまことの心で儂の話を聞き入れてくれる人はもうこの現《うつ》し世《よ》には一人もおらぬものと諦めてしもうた。……儂が己《おの》が力で己が現《うつ》そ身《み》を捨てて行ったのじゃ。……
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