を引張らせる奴さ。帆立貝《ほたてがい》の中に俺達を閉じ込めて、宇宙《うちゅう》の真底を見せてくれない奴さ。……まあ、俺達の過去をふりかえってもみろ! 何と云うこせこせしたくだらぬ風俗だ! 何と云う汚らわしい些細《ささい》な熱狂に時を忘れていたことだ! 俺達はおけらの足に糸をつけて、玩具の車を引張らしていたに過ぎないのだ!……なんだ? なんでそう俺の顔をしげしげとみつめるのだ!
小野 石ノ上。……君は少し疲れているようだ。疲労のために心が乱れているようだ。……何かこう特別に工合が悪いと云うようなところはないのか? 例えば、頭が痛むとか、夜眠れないとか?
文麻呂 眠れないのではない。眠らないのだ。なよたけのことを思うと、夜なぞ安閑《あんかん》と眠っておられんからな。
小野 いや、それがいけないんだよ。……そう云う不摂生《ふせっせい》をやるから、君は正常な心の均衡《きんこう》を失ってしまうのだ。……石ノ上。それではこう云うようなことはないかい? 例えば、ふだん見たこともないようなものが見えて来るとか、聞いたこともないようなものが聞えて来るとか。
文麻呂 (自信をもって)あるね!
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