。何のことはない、向う見ずの馬車馬だ。盲滅法《めくらめっぽう》と云う奴だ。それでは必ずことを仕損《しそん》じるよ。物事はまずはっきりと条理《すじみち》を立ててから……
文麻呂 よけいなお世話だ! 貴様なぞには分るものか! 俺はただ、天の呼び声に応《こた》えて、正しいと確信する道を進むだけさ! なよたけを救い出すのは、俺が天から受けた命令だ! 道を開いてくれるのは天だ! 天は正しきものに味方するんだ!
小野 まあまあ、何もそう大声を立てなくってもいいではないか! もう少し冷静になってくれ。……もう少し現実的に物を考えてみてくれんか? 例えばだ、なあ石ノ上、天の命令はいいが、君の行動が社会にどう云う影響を及ぼすか、と云うことを考えてみたことはないか? あるいはまた他人の眼にどう映るか、と云うことを考えてみたことはないかい? 君のやろうとしていることは、考えようによっては実に大変な一大事なんだぜ。俺に云わせれば君一人のために平安の都全体が鳴動するかもしれぬほどの大事《おおごと》を孕《はら》んでいる。……それほどの一大事が、今、刻々と近付いて来つつある。何だか俺にはそんな気さえして来た。いいか
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