お祈りしましょう! じゃ、いい? みんないつもの通り、そこんところにずっと並んで頂戴《ちょうだい》!
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わらべ達はそう云う習慣があるらしく、竹林の方に向って、一列に並ぶ。なよたけはその二三歩前に立つ。
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なよたけ みんなきちんとして、心をきれいに澄まして、もう余計なことは考えちゃ駄目よ。……けらお! お前何をしてるの?
けらお ぶよが刺《さ》したんだイ。(足をぼりぼり掻《か》いている)
なよたけ お前はどうもあてにならないわね。けらお、お前にも本当にあんなあな[#「あんなあな」に傍点]がいなくなったんでしょうね?
けらお ん、いねエ…………
なよたけ もう都の子供と石ぶつけなんかして遊びたがっては駄目よ。
けらお ん、あそばねエ…………
なよたけ さあ、それじゃもうここにはあんなあな[#「あんなあな」に傍点]はひとりもいなくなった!……もう悪い子はひとりもいなくなった!……みんな黙って、静かーに、お天道様を拝んでごらん! そうして、みんな心の中で何度も何度も云ってごらん! あたし達はみんなお天道様の子です! あたし達はみんなお天道様の子です! あたし達はみんなお天道様の子です………
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小鳥達の囀《さえず》る声が、急にその数を増して行き、あたかも「交響楽」のように交錯する。緑色の耀光《ようこう》が神秘なまでに充《み》ち溢《あふ》れて行く。…………突然、あっと思う間に、陽光が翳《かげ》ってしまう。……小鳥の声もぴたっと止んでしまった。
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なよたけ あら? 変ねえ。……どうしたのかしら?
雨彦 (耳を澄まして)あ! 遠くで竹林がざわざわ鳴り出したよ!
蝗麻呂 (左手を見やり)なよたけ! 都の悪い人がやって来た! ほら!
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皆、いっせいに左の方をみる。
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こがねまる あッ! またあの人だ! なよたけをさらいにやって来た!
けらお ひとさらいのあんなあな[#「あんなあな」に傍点]だ!
みのり (怖《こわ》がって)なよたけ! はやくお家へお帰りよ!
雨彦 ね! お家にかくれて、黙って琴をお弾《ひ》きよ!
胡蝶 なよたけ! さあ! 早く、早く!
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(舞台、再びもとの通りに移動)
なよたけ、家の土間の中へ駆け込む。
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なよたけ お父さん! またいつもの変な人がやって来たのよ。うまく追い返して頂戴《ちょうだい》!
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造麻呂、黙ってうなずき、素知《そし》らぬ顔で竹籠《たけかご》を編み続ける。なよたけ、竹簾《たけすだれ》を下して、右手奥の部屋に消える。
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けらお (空を見上げ)悪い雲がやって来たぞイ! お天道様の御機嫌が悪くなって来たぞイ!
蝗麻呂 冷い風が吹いて来た!
みのり 小鳥もみんなどこかへ行っちゃった!
胡蝶 あたしお家へ帰ろう!
雨彦 みんな、お家へかくれて待ってよう!
こがねまる おい! じゃ、みんな、またあとでな!
わらべ達 (思い思いに)またあとで! またあとで! またあとで!………
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わらべ達、散り散りばらばらに消えてしまう。竹の林がにわかにざわざわと鳴りひびき始めた。……あたりは急に曇って薄暗くなってしまった。なよたけの琴の音が、右手の方から聞えはじめる。………
大伴《おおとも》ノ御行《みゆき》、粗末な狩猟《かり》の装束《しょうぞく》で、左手より登場。中年男。荘重《そうちょう》な歩みと、悲痛《ひつう》な表情をとり繕《つくろ》っているが、時として彼のまなざしは狡猾《こうかつ》な輝きを露呈《ろてい》する。………
しばらくは外で躊躇《ちゅうちょ》しているが、思い切ったように土間の敷居《しきい》の所に姿をあらわす。
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御行 こんにちは、……お爺《じい》さん。
造麻呂 (ちょっと会釈《えしゃく》を返して、後は素知らぬ顔で、竹籠を編んでいる………)
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間――
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御行 先日の手紙《ふみ》は、……あのひと……読んで下さいましたか?
造麻呂 (相変らず仕事を続けながら、冷淡に)さあ、どうですか、……まあ、渡すには渡しときましたがね。……何せまだ字もろくに読めないほんの田舎者《いなかもの》の小娘でござりまするで、
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