る。都の人達はみんな利己主義です。享楽《きょうらく》主義です。自分の利慾しか考えない。自分の享楽しか考えない。みんな自己本位の狭隘《きょうあい》なる世界に立籠《たてこも》っています。都は虚偽にみちみちています。真の道徳は地を払ってしまった。……自己の栄達のためには、どんな不道徳なことでもしかねません。他人の幸福のことなど、微塵《みじん》も考えてくれやしません。あなたが都へ連れて行かれたら、それこそ不幸のどん底につき落されるのですよ。あなたは一生涯泣いて暮らさねばならなくなるのです。
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こがねまるが戻って来た。二人の話を聞いている。
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文麻呂 なよたけ。大納言は……絶対にまごころを持っているひとではありません。決して、あなたの美しいこころねの分るひとではありません。ただ、あなたのかおかたちの美しさに幻惑《げんわく》されて、あなたを騙《だま》そうとしているのです。あなたのこころが分るひとは自然のこころの分るひとだけです。自然のこころとは愛です。恵みです。あなたの心を知り得るひとは、この自然のこころを愛し得るひとだけです。自然のこころを愛し得るひととは詩人です。詩人だけは本当に美しい自然のこころを読むことが出来るのです。そして、なよたけ、……あなたの美しいこころも読むことが出来るのです。
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胡蝶《こちょう》と蝗麻呂《いなごまろ》も戻って来た。わらべ達はみんな二人の青年となよたけを囲むようにして、並んで聞いている。………
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文麻呂 なよたけ。僕達を誤解してはいけません。僕達はあなたのこころの友達なのです。僕達にはあなたの美しいこころが分るのです。あなたの呼吸使《いきづか》いの中に汚れのない自然を感ずることが出来るのです。……なよたけ、……僕達二人は詩人なのです。
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何やら急にまた小鳥達の声が騒がしいほど、遠近《おちこち》にその数を増して行く。竹の葉を通す陽光は再び鮮《あざや》かな緑にきらめき始めた。
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清原 (最大の勇気を振《ふる》って)なよたけ。……ほ、ほら! 聞いてごらんなさい! 小鳥達までが僕達の
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