、去年の冬、蓑虫《みのむし》を真裸《まっぱだか》にして、冷い雪の上に捨てちゃったの。
なよたけ 無慈悲《むじひ》なこと!……蝗麻呂! お前は?
蝗麻呂 僕、蝗をたくさんとって来て、片っ端からお醤油《しょうゆ》をつけて焼いて食べた。……
なよたけ まあ、むごたらしい!……そんなことをするから、後の世の人達が食べなくてもいいものまで食べるようになってしまうんだわ。……じゃ、こがねまる! お前は?
こがねまる (非常な躊躇)……おら、……おら、……
なよたけ いいから、云いなさい!
こがねまる おら、……いつだったか、お薬鑵《やかん》の中に黄金虫《こがねむし》を一杯つめ込んで、……お湯をかけて、焚火《たきび》で沸《わ》かして、……「煎《せん》じ薬」だよってごまかして、胡蝶に飲ましちゃったイ。
胡蝶 (急に思い出して、火のついたようにおいおい泣き出す)
なよたけ 胡蝶! 泣かなくってもいいの! もうこがねまるはあんな悪いことは二度としないわね?
こがねまる (素直に)ん、……しない。
なよたけ 胡蝶! こがねまるはもうしませんって! さあ、胡蝶! お前は? お前はどんなことをしたんだっけ?
胡蝶 (涙を拭《ふ》き拭き)……あたし……あたし、……蝶々の翅《はね》で、……髪かざりを作ったの。(またおいおい泣き出す)
なよたけ いいの。いいの。昔、悪いことをしたって、今ではもうお前の中にはあんなあな[#「あんなあな」に傍点]はいなくなったんでしょ!
胡蝶 ん、……いない!
なよたけ みんなにももういないんでしょ?
わらべ達 (一緒に)ん、……いない!
なよたけ (嬉しそうに)さあ、それじゃ、もういいの!……みんなの「心」は今とても透《す》き通っている。心の底までお天道様の光が射し込んでるわ。……いつまでもこのままでいるのよ。もう二度とつまらないことはしないようにするのよ。悪いことばかりしてる人は、死んでからお月様の所へも行かれないし、来る世も来る世も、小鳥や虫に生れ変って、いつまで経《た》っても、悪いあんなあな[#「あんなあな」に傍点]に苦しめられるだけよ。……そんなことって嫌《いや》でしょ? お前達はみんな死んだらお月様のところへ行きたいんでしょ?
わらべ達 (銘々《めいめい》に)うん、行きたい! 行きたい! 行きたい!
なよたけ さあ、それじゃ、またみんな一生懸命にお天道様に
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