蝗麻呂《いなごまろ》! (指さして)じゃ、向うの方でちゅんちゅん鳴いてるのは?
蝗麻呂 やまがら! (やまがらの鳴声、一段と高く、ひとしきり)
なよたけ こがねまる! こっちの方で、ひーよひーよって鳴いてるのは?
こがねまる ひわ! (ひわの鳴声、一段と高く、ひとしきり)
なよたけ けらお! 今度は、ほら、あっちの上の方で、ちちちち ちろろって鳴いてるのは?
けらお ほおじろだイ。(ほおじろの鳴声一段と高く、ひとしきり)
なよたけ 胡蝶《こちょう》! ほら、ほら!……向うの方からぶーんぶーんってこっちへ飛んで来る小さなものはなあに?
胡蝶 あ! みつばち! みつばち! みつば………
なよたけ 逃げなくったって大丈夫! こっちでおいたをしなければ蜜蜂《みつばち》は決して刺《さ》したりなんかしないわ。……ほら、行ってしまった。……蜜蜂さん!……綺麗《きれい》なお花の咲いてる処《ところ》には悪いあんなあな[#「あんなあな」に傍点]がたくさんいるからお気をつけ!
みのり (突然、不可解そうに)なよたけ! なよたけ! あれは何! ほら! あれは何!(空中を指さしている)
なよたけ どこ?
みのり ほら! そこにほら!……飛んでいる。
なよたけ ……見えないわ。
みのり (飛び上って、空中から何かをつかむ)
なよたけ 何を捕《と》ったの、みのり?
みのり (掌《てのひら》をひろげてみせる)
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わらべ達も、みんなのぞき込む。
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雨彦 なんだ。……たんぽぽの種子《たね》だ。
なよたけ まあ、新しいたんぽぽを咲かせるために、ちいさい種子がこんな処《ところ》まで飛んで来たのね。……みのり! 空へお飛ばし! お天道様が一番いい所へ連れて行って下さるわ。
みのり (空へ向って吹き飛ばす)
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みんな、嬉しそうに、たんぽぽの種子の飛んで行く方を見上げる。
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なよたけ 飛んで行け! 飛んで行け! 微風《そよかぜ》に乗って飛んで行け!……誰《だれ》も知らないしあわせな所へ飛んで行って、綺麗なお花を一杯咲かせておくれ!
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わらべ達、その行方を見上げながら、誰からともなく「唄」をうたい始める。
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