わ。自分の悪かったことに気がつきさえすれば、もうそれでいいの! 死んだ毛虫さんもきっと許してくれるに違いないわ! さあ、こがねまる。泣くのはお止め! お前はもう悪い子じゃなくなったの!
けらお (頭上を見上げ、突然、一種の畏怖《いふ》にとらわれたように叫ぶ)あッ! 蝶々だ! 蝶々だ! あんなにたくさんあげはが飛んで来た!
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右手の方から、無数の蝶が、群をなして飛んで来たらしい。皆いっせいに頭上を見上げる。
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雨彦 あ!……こがねまるが毛虫を殺したんで、怒ってやって来たんだ!
蝗麻呂 こがねまるをうらみにやって来たんだ!
けらお (叫ぶ)おらじゃねえよ! おらじゃねえよ! 毛虫を殺したのは、おらじゃねえよ!
こがねまる (助けを求めるように、泣声で)おら、本当に殺そうとしたんじゃないやイ。……おら、あんなあな[#「あんなあな」に傍点]に騙《だま》かされたんだイ。知らない内にいつの間にか殺しちまったんだイ。……おら、毛虫が憎《にく》らしくも何ともなかったんだ。……知らねえ内にあんなあな[#「あんなあな」に傍点]がおらの足にのりうつっちゃったんだ。おらがつぶしたんじゃないやイ。……あんなあな[#「あんなあな」に傍点]がつぶしちゃったんだイ。おら、何にも知らねえうちに……
けらお 行っちゃったよ。
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蝶の群、左の方に消えたらしい。みんな、遠く左方を見上げてほうとしたように立っている。
間――
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胡蝶 (ふと、地面を見て)あらッ! みんな見てごらん! ほら毛虫さんが動き出したわ。………
みのり あ! ほんとだ! 毛虫さんが生き返った。……
こがねまる (悦《よろこ》びに溢《あふ》れて)なよたけ! 毛虫は死んじゃいないや! ほら! ひょこひょこ歩き出したよ!……なんだ、こいつ死んだ真似《まね》してたんだな。………
なよたけ (嬉しそうに)そうじゃないわよ。……お前が悪かったことに気がついて、本当のことをちゃんと白状したから、お天道《てんとう》様が生き返らせて下さったのよ。きっと、そうよ。お天道様はいつでもいい子の味方をして下さるんだわ。悪いことをしても、ちゃんと白状して、自分で本当に悪かったと思え
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