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清原 ……しらないんだ。
文麻呂 何だい。訊《き》いてみないの?
清原 ……まだなんだ。
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間――
[#ここで字下げ終わり]
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文麻呂 いくつ位に見えるのさ?
清原 それが、……よくわからないんだ。
文麻呂 何だか少し頼りないね。……話したことはあるんだろ?
清原 (俯向《うつむ》いたまま、無言)
文麻呂 ね。毎晩逢って話ぐらいはするんだろ? え?
清原 (ごく低く[#「ごく低く」に傍点])まだなんだ。

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長い沈黙。
[#ここで字下げ終わり]

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文麻呂 (しばらくは呆《あき》れたような顔をしていたが)そうか、……まあ、いいさ。……つまり、まだほんの「恋知り初《そ》めぬ」と云ったばかりの所なんだな。だけどね、清原、恋をするにはもう少し勇気を持たなくちゃ駄目《だめ》だよ。もう少し思い切ってやらなくちゃ駄目さ。僕はそう思うな。この女《ひと》こそ自分の一生を賭《か》けた唯一《ゆいいつ》無二の女性だと云う確信がついたら、早速《さっそく》、自分の心情を率直《そっちょく》に打明けなけりゃ問題にならないよ。遠慮なんかしてたらいつまで経《た》ったってらち[#「らち」に傍点]があかない。もちろん、僕はあの当世流行のつけぶみと云う奴は大嫌いだ。こそこそまるで悪いことでもしてるように、巧《うま》くもない文章を紙に書き並べて、逃腰《にげごし》半分で打明けるなんてのは、第一、男らしくもないし、……それに卑怯《ひきょう》だ。もちろん、面と向って、堂々と口で打明けるんだ。……そりゃ、そうだぜ、君、いつまでもぐずぐずそんな態度を続けて行ったとしてごらん。せっかくの恋も水沫《みなわ》のごとく消え去ってしまうのだ。例えばね、先方でも君のことを慕《した》っているとする。……いいかい?……いつまでも君が愛を打明けてくれるのを待っている。……待っても待っても打明けてくれない。……そのうちに他の恋敵《こいがたき》があらわれて、先に結婚を申し込んでしまう。ね? 君はもう破滅だ。……君の「恋」は永久にそこで終ってしまうかもしれないのだ。
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話の途中から、空には星々が燦然《さんぜん》と輝き始めた。………
文麻呂はそっと清原ノ秀臣の反応
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